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四十九歩目 「理解しようね?(II)」

エワルは、そう大きくない時雨の手のひらに、上から三文字ぎゅうぎゅうに敷き詰めて書いた。

変ななぞり方も目立つ。

そして、そこになぜか女と書き足した。

性別はかけと言っていないのに……そうだ、自己紹介の時も……!


時雨は、それを見て落胆した。

予想が当たってしまったのである。

彼女に真実を、言うべきだろうか?


……………彼女のエワルと言う名前は、名前ではない。

エワルを縦に書いたのを見た時雨は、確信した。

カタカナの『エ』の上を飛び出たのは、彼女が子供だから?

カタカナの『ワ』がすごく横長なのは、彼女が子供だから?

カタカナの『ル』が横に潰れてるのは、彼女が子供だから?


そんなわけがあるか!彼女は頭がいい。

教育を受けていなくても、そんな間違いをするはずが……




「まさか、………売……女?」




それは彼が、嫌いなワードだった。

敬愛する若様を邪魔したあの男、あの男は許してはならない。


まさか、こんなに小さな少女がそのような暮らしをしているとは。

平民の一部が、魔法を持つ子供を長男や長女にするために、子供を売り払うと聞いたことがある…………

だが、こんなに聡明で魔法が使える子供を売り払う理由がない。

何故だ?何故そんなことを?


…………………眠い。

秘術を使っていないからか、薬のせいで睡魔が襲ってくる。

エワルは、先程二日は目覚めないはずと言った。

相当強い薬なのだろう。


眠気を振り切り、時雨は再びエワルに話しかける。




「なんで……こんな薬を持っているんですか。それに先程きで………貴方がしたことも…………とてもただの子供ができる芸当だとは思えません。」


「…………………」


「自分に不利な情報は流さずに隙を伺う…………とても賢明な判断です。しかし、判断力はあっても現状を理解する能力はないようだ。吾輩は刀を所持している、貴方より力も強い。自分の使える魔法も全て無効化された上、吾輩の行動原理を理解できていないのですよ?ここで断れば、吾輩が貴方を殺す可能性だってあるのに。」


「それはありえない。」


「何故そう言い切れるのです。」


「それだったら、とっくにエワルをころしてる。おにいさんは、エワルになにかをきたいしていたようにみえた。だいじなひとにされたことを、おこっているはずだし、ねむいはずなのに、エワルになにかをきたいする………よゆうがあったよ。」


「………………そんなに冷静では、ありませんよ。」


「れいせいだよ、すぐあのひとのところにいかないで、エワルをつかまえようとするんだから。」


「…………!!でも、吾輩に殺される可能性だってあるでしょう?!」


「それ、おにいさんがいっちゃう?」




時雨はエワルの頭の良さが恐ろしくなった。

こんなに小さな少女が、ここまで他人を観察していることに驚いたのである。




「それに、もう殺されたっていい。」


「……………は?」


「殺されたっていい、エワルわかってるから。おかあさんはエワルがいらなかったことくらい、わかってるから、だいじょうぶ。」




親に、売られた子供。

この年齢で、その境遇を理解してしまっていることは悲しいことだ。

時雨は、そんなことないなんて無責任な言葉は言えない。

子供にこんなことをさせる親なんて、ろくな親じゃないだろう。


彼女は、心を押し殺すように自分に言い聞かせる。




「だいじょうぶ、おかあさんがおとうさんじゃないひとに、エワルのおかねあげてても………………だいじょうぶ。」


「お金………まさかそれって…………」


「エワルがいろんなひとから、おどしとったおかね。エワルとほかのみんながしょうこをあつめて きょうそさま がおかねをおどしとるの。」


「他の皆?…………………………まさか、他にも貴方と同じような生活をしている人間が?!」


「うん。」


「ど、どうしてこんな………」


「しょうこをあつられなかったら、おしおきされるんだ。よばいするのよりもっとひどいことをされる。」


「…………!!」


「それにみんなは、いけないことをしているじかくがぜんぜんない。エワルもなれちゃったけど。」




時雨は、この現実から目を背けたかった。


これは王政を崩壊させた自分のせいか?

…………父上が国を放棄するようになったきっかけは自分だ。

吾輩は………感情を持ってはいけない王の、父の心を動かし、兄二人が王族でありながら殺しの道に連れて行ったも同然の存在。

王になってそれらの罪を清算することもできたはずなのにそれをしなかった。

人を騙して笑って踏み潰し、最終的には自らも殺しに手を染めている。

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