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四十五歩目 「愛したら駄目なのか?(II)」

あの子は、相当頭が良いに違いない。

時雨さんもエピンさんも頭が良いはずだ。

毒薬検査キットを持ち歩いている、舌のいい人間に毒を盛るのは難しいに決まっている。


いくら子供で気を抜いていたにしても、出し抜くのは厳しい。

エピンさんに至っては会話すら困難なのだ。

この年齢の子が字を読めるとは考えにくい。




「はぁ……はぁ……!」




エピンさんの息が先ほどより荒くなっている。

早くあの少女をなんとかしなければ。

でも、何も思いつかない!

やはり、オレには……




「正面突破しかない!!」




メイはそう叫び、エワルに向かって突っ込んだ。




「……………!!!」




またエワルが雁字搦めを使ったら、今度はメイがつかまってしまう。

エピンは心の叫びを、声にすることができなかった。




「じゃまするなら、だれだってようしゃしない!!!」




エワルは、また雁字搦めを使おうとしている。


なんで突っ込むんだ。

何かしら武器を持っていたら、メイが一方的に攻撃されるだけだというのに。

だが、今更人形で彼女を止めることはできない。

華乱や普通の攻撃魔法は射程が足りない。

万全な状態なら可能性はあったが、この状態では……


だから苦しいんだ。

勉強や知識なんていくらあっても、実践する力がなければ意味をなさないから。

それら全てを覚えられる才能があっても、行動できる力も行動できる体も僕にはない。

昔は人形を引き連れないと階段も登れなかった。

ありとあらゆる病にかかったおかげで、病気については人一倍詳しくなった。


兄上に似ているからという理由で怯えられただけ。

僕が人を殺して、兄上と同じだと思われたから。


兄上のような強大な魔法の力はない。

時雨のような身体能力もない。

僕には家柄しかないんだ。

これ以上努力で伸ばすことのできない長所しか、ないんだ。


生まれながら持つ、個人の生誕魔法にもがっかりされただろう。

攻撃にも回復にも娯楽にも使える選択式の二人の魔法に対し、僕の生まれながらの魔法は動物と会話することができるだけの魔法だ。

僕はこの魔法を持っていて良かったと思っているが、両親がどう思ったかなんて容易に想像できる。


植物を育てる魔法が欲しかった。

様々な雨を降らせて、水を自在に操れる魔法が欲しかった。

得意な勉強や知識だって兄には敵わない、弟とは互角。

歌だって時雨には負ける、兄とは同じくらいの実力だ。


記憶能力があったって無意味なんだ。

兄は、一度見たものをずっと記憶することができる。

一冊の分厚い本をたった三日で全て覚えてしまう。

僕は一週間かかる。

皆はそれをすごいという。


だが、たとえすごくても兄がいれば僕は必要ない。

優秀な兄がいて、弟がいて、出来損ないの真ん中は果たして必要なのか?


考えないようにしたって考えずにはいられない。

大半の人は天才に及ばない。

そんなこと知っている、けれど考えずにはいられない。


聡明?魔法が使える?見た目がいい?

どんなに優れようとしても、自分の価値なんてどこにもなかった。

恵まれているはずなのに、幸せなはずなのに。


幸せだと思えない自分が大嫌いだ。




「な、なんスかこれ?!」


「このままナイフで……!」




グサッ!!!




「くっ?!」




また同じにしていいのか?

だが、ここで僕が応戦しても勝てない。

蔦を使えば勝機はあるが、メイまで巻き込んでしまう。


………馬鹿だ。

何も僕が応戦しなくたって、メイを助けてエワルを拘束すればいい話。

何をためらっている?!

今がどうしてもの時だろう!!




「……………!!」




エピンは、人形に乗って走った。

人形自体に乗れば、進むスピードが上がる。

ぬいぐるみサイズの人形といえど、運動が苦手なエピンがそのまま走るよりずっといい。


攻撃が当たるところまで近づく必要はないのだ。

突然進み出したら、きっと目が合う。

目さえ合えば……




「……止まれ。」


「え……」




戻って一分以内に、時雨を起こす!!




時雨を起こす方法は一つしかない。

気が進まないが、もう体力の限界だ。

体が熱い……あぁ、そうか。

この薬は…………




「………デュフォース。」




この魔法で、時雨の秘術を引き出す。

あの秘術を引き出せば、メイは助かるだろう。




「………………」




起きてくれ。

起きないと僕の体力が持たない。

もう、意識が………



ドサッ




「なんだ……わ、若様?!」




時雨は、ようやく目覚めた。

だが、彼は全く現状を把握できていない。




「これ、無理矢理、何か…秘術が……ッ…!!」




彼はようやく、勝手に秘術が引き出されて目が覚めたことに気づく。

こんなに眠いのに、心拍数が秘術の影響でどんどん上がっていくのだ。

そしてその場にエピンが倒れている意味も理解する。

人形を使ってここにきたということは、速度を重視していたということ。

仰向けに倒れた彼の顔からは、相当火照っていたことが窺える。


一刻も早く自分を、無理矢理にでも起こして戦わせるため。

それがわざわざ使いたがらない魔法まで使って、自分を起こした理由。

時雨はそれを理解し、ドアから飛び出した。




「わかりました……若様がお望み通りの戦闘狂に!!!」

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