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四十歩目 「真相は闇の中?(III)」

どうやらレナとジャスパー以外、全員エピンのベットに潜り込んで一緒に寝たらしい。




「大丈夫だ、制御できないなら使わなければいい。感情なんていらない。迷うな……嘘なのだから。違うのだから。ここには皆がいる。もうやらない、やらなければ辛くない。」




ズキ………



頭の片隅が、痛んだ。




「僕は……エピンだ。化け物なんかじゃないんだ。極秘暗殺最高部隊後衛第二号なんかじゃないんだ。」




なんとなく気分が悪くなり、その場に置いてあったメロンパンを衝動的に食べ始める。

こうすれば辛さが緩和するのだ。




「あれ、いつもと味が………あ、砂糖。」




彼はメロンパンに砂糖をかける。

それどころか、基本的に全てのものに砂糖をかけて食べるのだ。


ちなみに米や野菜などでだろうと、元から甘いものだろうとお構いなしである。

甘いものの食べ過ぎで死ぬのも時間の問題かもしれない。

健康に悪いことは間違いないだろう。


エピンがメロンパンを食べようとしたその時………




「若様、物音がしましたが……お目覚めですか?お目覚めなら、拍手をお願いします。」




時雨の声だ。




「……………」




パチパチパチパチパチ




「お目覚めですね、失礼いたします。」




ギィィィィィ……



時雨が部屋に入ってきた。




「回復して安心しました………少しは反省してくださいよ。」

「……………?」


「何不思議そうにしてるんですか!!〔威厳の目〕を使ったでしょう?!」


「…………!」


「………………あの魔法はどうしてもの時だけです。それにトルテ殿は、若様がロベリアさんを殺したと思い込んでいます。たまたま若様の姿を見たものがいなかったからよかったものの、もし見られていたら!!」


「よ……か…っ……」


「あ、手帳がないのか。今すぐ持って参ります!」


「よ、か……よ………かっ……た。」


「良かった……?なぜです?!」






「良かったとは何事ですか?!」


【自分が殺したと思っていないなら本望だ】


「だからって、体を壊すようなこと!!」


【どうせ僕らは人より早く死ぬ】


「……………それは、そうですけど。若様は違う。」


【筆談なんかをしたって、感情が人より多いのは事実だ】


「確かに、父上も……母上を愛してしまってから体を壊し始めたと聞きました。殺すのも容易でしたよ。」


【国を率いるものは、感情なんて持ってはいけないんだろう】




その文章に、時雨は舌打ちをした。




「チッ…………くだらねぇな。」




つい本音が出てしまう。

それにしても、なんて馬鹿げているのだろうか。

感情を持ってはいけないなんて……くだらない。




【そういえばトルテはどうした】


「トルテ殿は吾輩が病院に送りました………お父様と同じ部屋に。まさか彼女の父親があんなに酷い状態だとは。」


【ノーコメント】


「仕方ありません。吾輩だってアサヒ殿の前で感情を制御できませんでした……蔦で、腕を…………」




時雨の表情が曇る。

それを見たエピンは、時雨の腕を握った。




「若様……」




そうだ、もう独りじゃない。

この方を守ることが使命であり、絶対なのだから。

普通の幸せなんて求めなくたっていいのだ。


兄弟として抱き締めあったあのなんとも言えない感覚。

それで胸が苦しくなるあの感覚を、彼は知らなかったのである。


時雨は兄弟愛がわからなかった。

それどころか、愛すらよく知らない。

エピンに対しては兄弟としての愛もあるはずだが、それがあまりわかっていないのだ。


やはり、幼い頃から愛がなくても生きて行けてしまうほどに器用過ぎたが故のことだろう。

ある意味不器用なのかもしれない。




「とりあえずお茶でも入れましょうか。」




時雨が立ち上がった、次の瞬間……



コンコン



玄関からノック音がした。

エピンはメイかと思い、ドアの方に行こうとする。

しかし、時雨がそれを止めた。




「待ってください、メイ殿なら扉のステンドグラスから頭が少し透けて見えるはずです。メイ殿にしては背丈が低すぎますよ。」


【でもチャイムを鳴らさないのはメイくらいだ

 腰でも痛めたのかもしれない】


「いいえ、メイ殿は若様が一人でいてもいいように声をかける。メイ殿なら、若様が人と話すことが苦手なことも、何かあった時にあの魔法が暴走することも知っていますからね。」


【そうだな、第一さっきまで元気だった人間が急に腰を痛めるなんてそんなことは稀だ

 それにメイは僕が咄嗟に抵抗する手段が近距離に不向きなこともなんとなく気付いているだろう

 心配性のメイが僕の危険につながることをする訳がない】


「………メロンパンのふわっとした香りもしないし不自然ですね。吾輩が出ましょう。後ろに下がっていてください。万が一の場合は捨て身でお守りします。」




時雨は持っていた紐で髪をすばやく結うと、ドアを開けた。



ガチャ。

自分へのプレゼントは、不幸。

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