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四歩目 「依頼?(III)」

布団の膨らみが片寄っているベッド。

ベッドの横の机に積まれている札束。



メイは少年に近づいた。

そして彼は、いきなり彼の布団を剥ぎ取る。




バサッ!!!




「お兄さん?!や、やめ…………」


「こ、この足…………」






その少年には、片足がなかった。






「…………売ったんだ。悪い足でも買ってくれるっていうから。これでママの病気を治せると思って。」


「なんで………なんで………」


「お兄さん?」


「なんでそんなことを!!!!」




メイは彼の胸ぐらを掴もうとする。

しかしその時、何かが彼の動きを封じた。




「ぐっ………なんだこれ?!人形に掴まれてる……」


「……………………」


「まさかこれ、靴屋さんが…………嘘、人形使いなの?」


「あ………うーんと…………」


「それよりこの人形解除してもらえませんか?痛いんですけど……」


「そ…………その子……………その子は………あっ………えっと………」


「靴屋さん………?」


「だ………だ、駄目…………!」


「あ、俺がこの子を掴もうとしたのが嫌だったんスか?すみません、ついカッとなって………」




エピンは再び黙り、人形から力を抜くと頷く。

言葉はしとろもどろだったが、これでも彼にしてはなかなか頑張って喋った方だろう。



結構いいタイミングなので、エピンは意を決して彼に真実を告げ………ようとしたが、メイに任せることにした。




「ねぇ、俺は君に………一つ大事なことを言わなきゃいけないッス。」


「なぁに?」


「…………ナンシーさん、お母さんは…………病気で亡くなりました。」


「……………うん、お母さんが来ない時点でなんとなく察してた。足売る意味……なかったな。」




エピンはメイがナンシーのことを伝えてくれたのを確認すると、靴の入った箱を少年に差し出す。




「…………………これ。」


「お、お兄さん、この箱は?」


「……こ…………えっと…………こ、これ!」


「開ければいいの?」




少年は、箱を開けてみる。

中身を見た途端、少年の目から涙が零れた。




「これ…………靴だね。」


「そうッスよ、」


「足売っちゃったから、履けないや。お母さんはいなくなったから………僕が足を売る意味なんてなかったんだ。」









少年に靴を渡した後、エピンとメイは一緒に帰っていた。




「お互いがお互いの為に頑張ったのに、あんなことになるなんて………」


【彼は足を捨てて母の体を、彼女は体を捨てて彼の足をとっただけだ】


「ちょっと…………捨てたって言い方………じゃなくて、捨てたって書き方は良くないッスよ?」


【けど、二人が得たものは何もないだろう?お互いに大事なものを守れなかったんだから】


「金があれば、何かを捨てる必要なんてなかったんスよ?!貴族の………貴族のアンタに何がわかる!!!」




その言葉を聞いた瞬間、エピンはメイを睨み付けた。

仮面から覗く白い瞳が、メイの何かに突き刺さる。


昔……………誰かに、こんな瞳を向けられた気がした。




【僕は貴族じゃない

 だが金に困ったことはなかった

 だから平民の気持ちはわからない

 でも、それは君も同じだろう?

 君に僕の気持ちが分かるのか?


 先程僕は恩師が事切れたことを知った

 今の僕は他人を思いやるほど寛大ではない

 ただでさえ余裕がない僕に

 君の思いを受け止めるなんて不可能だ


 恵まれていないと称される人々

 何故彼らは自分を被害者にする?

 頭を使え

 それは君も同じだ

 金さえあれば良いのなら金を手にいれればいい

 何故それが出来ないんだ?


 それが出来ない限り

 僕らのような人間は対等にはなれない】


「く、靴屋……さん………」




靴屋は沢山の人形に囲まれながら走って行った。

エピンとメイの距離は、段々と遠ざかっていく。

しかし、エピンのポケットにいたエリーゼが、メイの方に向かっていった。


メイの所につき、エリーゼは特注の小さいペンで契れた紙に文字を書く。

書き終えるとそれをくわえて、メイにさしだした。




【ごめんね】




少しいびつな小動物の字は、メイの心には届かない。




「こっちは金とか、そういうの盗んでまで学校いってるんスよ。」


「ちゅっ……」


「俺は、学校にいくまで真っ当な金の稼ぎ方なんて知らなかったッス!文字だって読めなかった。知っている人に知らなかった人の気持ちなんて分からない。勿論俺だって靴屋さんの気持ちは知らないッス。けど、靴屋さんが簡単に言っていることが普通の人には簡単じゃないんだよ………」


「ぴちゅ?」


「ただ平民を見下すようなクソ野郎だったら嫌いになれたのに………正しいことしか言わないんだ、靴屋さんは。」


「ぴっちゅ!」


「アンタに言っても仕方ないか、ごめん。こんなただのネズミに言っても………」




ガブッ




「いってぇぇぇぇ!!!」


「ちゅぴぃ!!!」


「お、怒ってる?」




エリーゼは嵐のように走り去っていった。






「ヴィオローネ。」


「キュイ。」


「民は、何故あんなに簡単なことが出来ないんだろうか?」


「キュッキュッ?」


「はぁ………嫌だったことを隠しててもヴィオローネはすぐ気づくな…………パン屋と喧嘩したし、初めての仕事は嫌な感じで…………それにリアルが死んだんだ、呼んでも来なかったから間違いないだろう。」


「キュイキュッ?!?!」


「本当だ…………もうリアルの翼にも鱗にも触れることは出来ない。」


「キュゥ………」




その時、エリーゼと住み着いているリス達が料理を運んできた。

エピンの晩御飯である。

ほぼ毎日作って持ってくるのだ。


それどころか、料理だけではなく家事全般を住み着いている動物や、ヴィオローネとエリーゼ達が勝手にやってくれている。

彼が担当しているのは動物達のご飯だけだ。

エピンは器用なので、やろうと思えば全てできるはずなのだが…………




「食欲がない………………今日は遠慮しておく。」


「キュイ?!」


「ヴィオローネ…………一日くらい大丈夫だ。」


「キュッキューゥッ!!」


「騒がしいな、余計なお世話だ!いらないっていってるだろう?!………お前達のご飯はトレーの上だ。」


「キュイ………キュゥゥゥゥ!!!」


「………?!流行り病なんて関係ない!!僕の家柄なんてもっと関係ない!!!いい加減にしてくれヴィオローネ!!ものすごく不快だ!!」


「………キュッ!!」


「何だディナーを抜くと言ったくらいで?!二、三日は持つ!明日食べれば良いじゃないか!!もう今日は一人にしてくれ!!!」




エピンは声を荒げ、寝室に入ってしまった。

自分を捨てることは、大切な人の思いを捨てること。

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