三十七歩目 「大好き!」
エピンは、時雨に抱きついた。
「わ、若様?!」
「あ………あり……が…とう……」
「………!!」
「………きょう……だい…………だか……ら。」
「…………嬉しい……です。けど、少し顔が熱くなって………な、なんですかその顔は!」
「………………♪」
「そういえば、声は歌で聞きましたが……改めて聞くと…………やはり吾輩より高めなのですね。」
「………………!!」
エピンは、時雨突然時雨から離れる。
時雨は先ほどの発言でエピンを傷つけたかと思い、謝ろうとした。
仮面からでも、拗ねた子供のような顔が垣間見える。
しかし彼の機嫌が悪くなった原因は声への指摘ではない。
“高め” という言葉に反応したのは事実だが……
「若様、大変申し訳ありません!発言を撤回…」
「あ…………」
「……はい?」
エピンは、むすっとした顔で時雨を見た。
何か言いたげである。
「いや。誤魔化せないレベルなので正直に言いますけど、吾輩の方が声は………低いかと。」
時雨は、肝心なところで鈍感だ。
乙女ゲームでたまにいる、勘が鋭く細かな気遣いもできるのに、乙女心はわからないタイプの人間である。
【時雨に抜かれてる】
「あ、高いってそういう……確かに少し 盛っている のに身長差がありますからね。」
【そうだ身長だ】
「それが何か?」
【昔はあんなに小さかったのに……時は恐ろしいな
少し震えた】
「まぁ同い年とはいえ半年くらい生まれた時期が違いましたもんね……吾輩の身長伸びるのも遅かったですし。」
【嬉しいけどどこか寂しい
何年も経ったからだろうか】
「確かに……十歳の時別れてから、もう7年経ちました。」
そう言った時雨は、なぜか少し悲しそうに見える。
何年も時間が経ってしまった今、こんなことを望んではいけないかもしれない。
主と従者としても向き合いたくて、でも兄弟としても向き合いたくて。
王政を崩壊させて何がしたかったのだろうか?若様を王にしたかったのか?
いいや、若様が王の器として扱われなかったのが嫌だっただけだ。
若様が拒否なさるならそれでいい。
だが……若様の御意志を無視したまま吾輩を王にしようとしたあの者達は……!!!
……………怒りのあまり弱っていた父上も含めて皆殺しにしてしまった。
まぁ、元々若様がいなくなってからも……若様を愚弄した者を殺したりはしていたが。
若様と塵も吾輩も、その点に関しては同じ。
塵と一緒なのは腹立たしいが………殺しに手を染めた点に関しては認めざるを得ない。
……………若様と同じだと思えば良いんだ、大丈夫。
望むことは一つだけだ。
それは、隣にいること。
お傍にいれば守れる。
従者として向き合えば吾輩の望みは叶うのだから。
「若様!」
「……………?」
「また、若様に仕えさせてもらえませんか。」
「………………!!」
「迷惑ならいいです。若様のお好きなように。」
「……………………」
「…………わ、若様……字を書いてもらわないと。流石に遊戯以外で心眼を使うのは気が引けます。」
エピンは、時雨に対してあまり手帳を使いたくはなかった。
………時雨も含め、本当はみんなに感情を伝えたい。
ただ感情の制御が効かなくなった時、危険な目に………
いいや、それだけではなくなっている。
二人に………あの目をされたくないんだ。
時雨は、たとえ僕が壊れても止めてくれる。
それにあの目を絶対しない。
絶対に兄上と同じ扱いをしない。
エピンは、時雨に手を差し出した。
「………と、な……り。」
隣にいて欲しい。
今はただ隣にいて欲しい。
言いたいことはたくさんあるのに、どうして言葉を声に乗せられないんだろう。
「…………喜んで。」
時雨が手を握ると、彼は笑顔で握り返した。
………エピンは、時雨の目の色が一瞬変わったことに気づかなかったのかもしれない。
「ふふふ……………うれ……し…」
「………あれ、結構若様と話せてます?」
「…………?」
「も、勿論、無理はしなくて大丈夫ですよ!少し舞い上がってしまいまして。」
「あ、あぁ……」
「あのお二人とは話さないのですか?」
「…目、が。………い、い………」
「…………何事もいきなりは良くありません、たまには手帳を。」
【あの目で見られたらと思うと、二人に思ったことが言えない】
「お二人はそういうタイプではないと思いますよ………あの計算ドリルを解いたんですから。ふふふ……」
「…………?」
二人が話していると、メイが来た。
朝トルテと時雨のゴタゴタで届けられなかったメロンパンを持ってきたのだろう。
今では毎日の恒例行事になっている。
もう納品と言っても過言ではない。
「エピンさーん。メロンパンですよ〜。あ…………ちょ、ちょっと話したいこともあるんで時雨さんに任せずにご自身でお願いします。」
エピンは急いで玄関に向かった。
それを見た時雨は、こっそり奥にある動物たちの集合している部屋に入る。
次回はキャラの解説や、魔法の解説です!
かなり気合いをいれたのでお楽しみに(・▽・)




