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三十五歩目 「それは本心?(II)」


彼は、彼女に謝った。




「そんなわけ……ないわ。」


「………ぼくだよ。」


「何言ってるの?!本気?」


「ぼくだよ!!ぼくなんだ!!レシピも盗んだんだよ!!ロベリアにあの靴のことを聞いて、使えばバレないと思ったんだ!!」


「う、嘘でしょ?!す、スマイラーさんにひどいことをしたのはなんで?!」




クリームのレシピだけだけど、わかったかもしれない、って。

盗んだの?なんで?なんで?




「ロベリアの方が頑張ってるのに……なんでみんなあいつの方に行くの?!嘘ついたって良いじゃん!レシピをもらうくらい良いじゃん!」


「ロベリア殿とトルテ殿では才能の量が違う。元からセンスがあり、菓子作り向きの魔法を持っている人と、独学で勉強しただけの貧民では才能の差は明らかです。」


「でもロベリアの方が頑張ってる!!」


「頑張っているか優れているかは別問題です。」


「そ、そんなこと言っても………!!」


「貴殿は、足が不自由な者に、頑張れば走るのが一番早くなれるよ!と笑顔でいうのですか?」


「…………!」


「頑張れば足が少し早くなるかもしれない、これくらいしか言えませんよね。」


「…………」


「貴殿はロベリア殿に甘い言葉をささやき、無駄な期待をさせた。貴殿は他人に無責任なことを言った。迷惑までかけた。それに若……エピン…殿もトルテさんを救出する際に怪我を負ったのです。」


「あ…………あぁ……」


「結局ロベリア殿も救えなかった。貴殿は何も為せなかった。認めましょうね、自分の愚かさを。」


「グスッ……ふえぇ……」




アサヒの涙を見ると、ロベリアは耐えられずに叫ぶ。




「いい加減にしてよ!!この子の………この子の母親は倒れたの!!それは本当でしょう?!その……………すごく不安定な状態だったのよ?!」


「このご時世、母が死んで嘆いた者たちも星の数ほどいる。そちらの方がよほど辛いでしょうしね。」


「死んだのとは訳が違う!子供の頃は母と心を通わせられたのよ!!何よ説教みたいに……母親がいつか起きるかもって期待してしまうあの子の苦しみを知らない癖に!」


「……じゃあこう言いますね。母親といつも会えてうらやましい。」


「アナタに何が分かるのよ!!自分の母親は死んでいるって言いたいの?!私のお母さんも死んでるけど!!」


「いいえ、吾輩の母上はおそらく御存命です。」


「生きてるじゃない!」


「おそらくですよ、おそらく。」


「…………………?」


「吾輩は、母上の姿を知らない。母上も吾輩の姿を見たのは生まれた時くらいでしょう。知っているのは料理上手であることと絵が上手いことだけです。けれどそれも嘘かもしれません。」


「ど、どういう……」


「手紙越しなのですよ、手紙のやりとりしかしていない……いや、できないのです。しかも吾輩からの手紙は母に直接送れているか分からない。送っているのは別人かもしれないと、常に疑いながら。かと言って、吾輩は届いていると伝えることもできない。そう手紙に書いても、別人が書いているかもしれないから。」


「そんなの、お母さんの思いはわかっ…」


「思いがわかるだけいいじゃないか、と考えますか?先ほどの行為は返事がしない仏壇に思いを伝えているのさほど変わらないんですよ。それに本当に母上の御意志なのかも不明です。もしかしたら別の者が書いているんじゃないか、と思う時もありました。」


「そんな……」


「それに手紙の内容が罪だ、毎回文末に会えるといいですね。なんて書かれているんですから。母上に寂しい思いをさせているのは自分だし、母上の書いた手紙ではなかったら、吾輩は期待を裏切られる。………………母上の手紙だったら母が会いたいと願ってくれている、そうではなかったら母を悲しませずに済んでいる。そのよう考えができるのはギャンブル……それか、あるお方の前だけです。」




ロベリアは後悔した。

なんであんなにひどいことを言ってしまったのだろう。

そうだ、どちらが大変だったかなんて決めることではない。


それぞれの思う強さも、それぞれの経緯も事柄も何もかも違う。

人が誰かを思う気持ちの量を決めているようなものだ。



自分には才能がない。







昔、ルール違反を承知で貴族の街に行って、そこらの大人に蹴られたことがある。

しかしその後、横たわっている私を手当てしてくれた人がいた。

私は、その赤子を抱き抱えた夫婦に名前を聞く。




『二人のお名前は?どーして助けてくれたの?わたし貴族じゃないよ。』


『俺はシュガー、助けた理由ねぇ……お前が倒れてたから!』


『わたくしはガトーショコラですわ。助けた理由は……わたくしが貴族じゃないからかしら。』


『えぇ?!貴族じゃないの?!こんなにお上品で素敵なのに?』


『気を使わなくてもよろしくてよ、うふふ……まぁ、わたくしは生まれながらの貴族じゃありませんの。』


『はえー……』




口をあんぐり開けていた私の口に、ガトーショコラさんが甘いものを突っ込んだ。




『はぐっ?!……もぐもぐ。』


『どう?新作なんだけど。』


『美味しい!!なにこれ?!』


『お菓子よ、初めてだったかしら?』




お菓子というとても素敵な存在を、その時に初めて知った。




『すごいね!すごいよお姉さん!』


『お姉さんだなんて、ありがとう!この子が大きくなったら、貴方みたいな娘も欲しいわね。』


『赤ちゃん、男の子なの?』


『えぇ。』


『男の子も素敵だけど、女の子も素敵だよね!』


『そうね、でも………少しこの子に会うまで時間がかかっちゃう体だったのですわ。いつ会えるかはわかりませんわね。』

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