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三十二歩目 「何がしたいの?(III)」

二人のやりとりをメイが遮る。

時雨は皆に礼をすると、外へ出て行った。




「っていうか、吾輩の雨って………エピンさん、あの人絶対に厨二病ッスよ!!!」


【いいや、普通だろう】


「えぇ?!本当にあの人にトルテさんの店任せていいんですか?!」


【大丈夫だ

 時雨が僕の命を実行できなかったことは一度もない】


「エピンさんが信頼してるのはわかりますけど、再会したのは数年ぶりッスよね?悪人になってる可能性だって……」


【確かに悪人になってる可能性も十分ある

 狂い具合にも拍車がかかっているし】


「だったら…!!」


【時雨は絶対に僕を幸せにするしかない

 そうしないと時雨は自分を保てないからな

 僕は信じている

 時雨自身も、時雨の弱い心も】




エピンの頭の中には、時雨が失敗するという可能性なんてない。

全く揺らがない彼を見て、メイはなんとなく押された




「そ、そこまで言うなら………」




メイは渋々頷き、時雨が入れた紅茶を飲み干す。

………………悔しいが、紅茶は本当にすごく美味しい。


大喜利大会になってしまうほど頭の回転が早いのだから、性格や趣味はともかく、優秀な人材であることは間違いないだろう。

それに、特に具体策があるわけではない。

信頼できるかはわからないが、今は時雨に頼るしかないのだ。




「あの人、なんか存在が法律違反だとか行ってましたけど……なんで名乗ったんだ………」


【時雨はスリルが大好きだから仕方がない】


「えぇ?!だってオレたちに通報されたらただじゃすまな………」


【当然死刑になるだろう】


「s、ssssししし死刑?!」


【そうだ、あいつは死刑になるかもしれないというとんでもないリスクを背負ってまでスリルを求める】


「それ、ギャンブルじゃないですか!!時雨さんが、トルテさんの店を復活させるか潰してしまうかギャンブルしたらどうするんです?!」


【どうするじゃない、時雨は100%そうする気だ

 舌が良く、相当美味しいものしか好まない時雨にとって、トルテの店が潰れ、トルテが借金を返せなくなったらとても困る

 それは時雨にとってとんでもないリスクだ、それを賭けるのだからスリルになるだろう】


「ますます心配になってきたッス……」


【だが、時雨は絶対に手を抜かない

 スリルやリスクが好きとはいえど、勝つこと、損することには予想外を見出さない性格だ

 魔法だってイカサマだって多用する

 時雨は、これで負けるはずがないという状態から落とされる予想外が好きなんだ

 今回も、僕らが通報したら殺す気だったに違いない

 大体ギャンブルを求める者は、予想外で勝てたという喜びに高揚するものだが、時雨の場合…頭が良すぎてイカサマをしなくても勝ててしまうから負けることが予想外になったのだろう】


「は、はぁ……」


【時雨が手を抜かなかったら、勝てる者なんてほとんどいない】








「トルテさんの店をなんとかできなかったら、ケーキやお菓子も食べれなくなって……若様からの信頼も失う。唆ります…滾ります♪」



時雨はご機嫌で歩いている。

……エピンの予想は的中していたようだ。


まずは、聞き込みをしなければならない。

しかし、追い出されるリスクを得るために着てきた東の伝統服がとても目立ってしまう。

一応、上にローブを羽織っていたが、先ほど脱いできてしまった。

まぁどうしようも無くなったら、それまでだったということ。



彼は今、とても気分が良かった。


王政を崩壊させてからどうするか全く考えていなかったのに、案外大丈夫だったからである。


それより、聞き込みをしなければ。

まずは被害者を特定するべきだろう。

彼はトルテの店の前に戻ってきた野次馬に声をかける。


…………おふざけ全開で。




「ねぇ、ここって何かあったの〜?」




彼の声を聞いた年配の男が、振り返った。




「あ、あんた見ない顔だな。」


「うん!僕ここにきたの初めてだもん!」


「そうかいそうかい、こんな何もないとこに来てくれてありがとさん。」


「それよりぃ、ここって何かあったの?」


「実はな、ここのお菓子で倒れた人がいるみたいで……」


「えぇ?!毒でも入ってたのっ?!こわぁ!!」


「詳しいことはわからないが、病気になってしまったらしい。」


「それならお役に立てるかも!僕、薬屋なんだ。薬をあげたいからその人の家を教えてくれない?」


「随分と突然じゃな、お前さんの気持ちはわかるが流石に家を教えるわけにはいかん。」


「えぇー?!見捨てるなんてできないよ!僕薬の腕だけは一流なんだよ?!」


「そんなこと言っても…その人の息子さんが外に出たがらないんだ。もう誰にも会いたくないって。」


「やーだやーだ!助けるのー!!」


「随分無邪気だねぇ……わしゃついていけんよ。まぁ知り合いじゃから、行くだけ行ってみるか?」


「ほんとに?!ありがとう!!」




時雨は、昔から演技が大好きである。

自分ではない誰かになりきるのが好きなのだ。

彼はその老人についていく。







コンコン




「アサヒ、わしじゃよ。どっかの薬屋がアサヒのおふくろさんを助けたいって言ってるんだが、どうだ?」


「僕、ちょっとおっちょこちょいだけど……頑張るよ!」




時雨の声を聞いた息子………アサヒは、ドアを開けた。




「おまえはママの病気がわかるの?」


「それは保証できないけど、とにかく全力を尽くすよ!!」




時雨の満面の笑みを見ると、アサヒもにっこりと笑う。




「わかった。入っていいよ、イトおじいさんは帰ってて。」


「一人で大丈夫かい?わしも昔は医者だったし、その青年と一緒に診察を……」


「大丈夫だよ!!とりあえずお兄さんだけ入って。」




アサヒは、時雨を招き入れた。

時雨は不穏な空気を感じ取り、少し身構える。

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