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三十歩目 「何がしたいの?(I)」

「ちょっとストップ!!!」




メイの声が二人の会話を遮る。




「さっきから色々と意味わからないんですけど!!!」


「若様が信頼しているご様子でしたから、てっきり事情を知っているのかと…………」


「王子?弟?王政?若様?というかアンタは誰なんスか?!」


「………………」




時雨は、後ろの部屋からエピンが出てくるのを待った。

心の声を聞かなければ彼の意思はわからない。


エピンは、部屋の外に手を伸ばして、手帳を開いて見せる。




【僕から話す

 時雨もソファに座って待っててくれ

 少し茨のせいで服の一部が切れてしまった】




主の言葉を聞いた従者は、意思を読み取れなかったため喋るか少し迷ったが、とりあえずメイとトルテに頭を下げた。




「…………詳しいことは若様のお召し替えが終わってからでお願い致します。お茶を淹れますのでお掛けください。」









「王子?!?!?!」 「王子ですの?!?!?!」




メイとトルテの声が同時に響く。




【黙っていてすまない】




エピンは、二人に本当のことを話した。




「あ、あの貴族じゃないって言ってたのそういうこと?本当だったのか。」


「一族と王族の生まれなら貴族になりませんものね!」


「あれ?ローズ家って貴族なんじゃ……」


「偽名でしたの?」


【偽名だ】


「貴族という肩書きが嫌で貴族じゃないって言ってるわけじゃなかったんスね。」


「王族って……王政が崩壊して逃げてきたんですの?」


「まさか!最近引っ越してきて仲良くなったとはいえ、エピンさんの靴屋の建物自体は数年前からありましたよ?前も思ってましたけど、オーダメイドで建てた後なんですぐ引っ越してこなかったんですか?」


【いや、ちょっと数年の間は追われていたからにそれどころじゃなくて

 けど、住むならここが良いなと思って前もって建てていたんだ

 お小遣いは一回も使ってなかったからこれくらいはやって良いと思う】


「お小遣いって………」


【お年玉も込みだ、誤解しないで欲しい】


「でもこの家建てて、トルテさんにお金貸す余裕があるってことッスよね……………」


「次元が違いますわ………」


「あ!!!!」


「ど、どうしましたの?」


「思い出した!!初めてメロンパン買いに来たときのあの会話……!!!」




『な、なななな名前………………えっ?』


『…………いや、えっ?』


『あっ、単位………そっか単位……………………』




「もしかしてオレが……’’お金の単位として’’ブランシュって言ったからあの時、名前って行ったんですか?王族なら名前にブランシュがつくはずッス。」


「その時のことは知りませんけど、きっとローズさんはいつものように喋れなかっただけだと思いますわよ。王族なんだからお金の単位を忘れるなんてことないでしょう。」


「そうッスね!ちゃんと接客する時はブランシュって書いてたし、読み方を忘れていたなんて……そんなことないッスよ。王族も買い物くらいしますしね。」


【すまない、正直その時は外に出たのが久しぶりで忘れていた】


「えぇぇぇぇぇぇぇ?!?!?!」


「先ほどのお話だと、家を買ったことがあると……」


【その場で札束を出して、これでできるだけいい感じにって頼んだから】


「え?この家いくらッスか?!」


【いくらだろう、正確な金額はわからないな】


「買い物はしたことありませんの?!」


【従者と一緒にお忍びでたまに行っていたが、お会計は全て任せていたし、商品の値段を見て買い物をしたことがない】


「値段を………見ない?」




メイとトルテは、顔を見合わせた。

彼がコミュ障だったので気付かなかったが、彼はとんでもない世間知らずである。

動物たちに任せているとはいえ料理や家事は一通りできるが、世の中を知っているかといえばそんなことは全くない。


時雨がなんでもできてしまったのもあり、彼は社会的常識を知らない雛鳥同然。




「そういやお金の単位の話で思い出したんですけど……エピンさんの本当の名前は?あとこの人誰ッスか?」


「吾輩の名は長いので時雨だけでいいです。後できちんと名乗ります。」




時雨は、エピンの意向がまだわかっていない。

エピンが王族であることを明かしたくても、一族の性は名乗りたくないと考えている場合もある。


先にエピンの名乗り方を見る方が無難だと思い、彼はフルネームを名乗らなかったのだ。




【僕の名前は、エピン・ノーブル・フィススタンツェ=ブランシュだ】




メイはよくわかっていないようだが、トルテは固まっている。


スタンツェ家………華の一族の本家であり、神聖とされているスタンツェ家は、王族に嫁入りして息子を授かると、次男であれ王位継承権が一番上になる恐ろしい家系だ。

貴族や他の一族の者は勿論、特に華の一族の分家のものは、全員スタンツェ家に頭が上がらないという。

裕福な家庭の出身だろうとは思っていたが、裕福どころの話ではなかった。


エピンの意向を知った時雨は、名前をフルネームで名乗ることを決意する。




「吾輩の名は、’’新 翡翠 / レイ・アルバート=時雨・ゾア=ブランシュ≠フィススタンツェ’’です。」


「…………な、なんて?」

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