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二十六歩目  「三人の王子は人殺し?(II)」

あれから何年か経った。


若様は何度も何度も殺しに手を染めたからか、家を出て行ってしまう。

しかし、殺しに手を染めてくれたおかげで………身の回りのお世話ができて正直嬉しかった。



遠方にいたスタンツェ夫人が戻ってきて若様を探し、父にも急いで探せと命じたが、父上は探しているフリをして探さなかった。


理由は、吾輩を王にするため。

戸籍上はアルバート家の養子だが、それも死んだことにして隠し子だとお披露目すればいい話。

父との血縁関係はあるため、聖女の魔法で確かめられても問題はないだろう。

母の血筋が知られてしまうことはない。

きっと、吾輩は望めば王になれた。



だが、若様を否定するなんて考えられない。

若様が一番相応しいのに!!若様が一番素晴らしいのに!!

父上が愛という理由で吾輩を王にしたがるのなら、吾輩が愛という理由で若様を王にしたがってもいいはずだ。

父上にその愛を拒否されたのだから、吾輩もその愛を拒否していいはずだ。

吾輩は、若様に依存している。




そして、王政は崩壊した。


………吾輩が父上と、王位を継承できる人間全てを殺してしまったからである。




『や、やめてくれ!!私には家族がいるのだ!!!』


『ふふふ……ふふ…』


『この……東の卑しい賊徒の息子が!!!』




こいつは確か、吾輩の正体を知っていた。

その為吾輩らを殺そうと何度も毒を盛ったうちの一人。


だが、なぜか笑みが溢れてくる。

愛する母を否定されているというのに。

言っていること全てが癪なのに。

吾輩は、あることに気づいた。




今、とっても興奮していることに。




自分がこんなことをするなんて想定外、予想外。



なんでこんな非合理的手段を取ったのか?

こんなこと合理性に欠けるし、死刑になるかもしれないのになんでこんな非合理的手段を?

そんな訳がわからない自分自身の行動に興奮している。




自分が、若様との賭け事を幼い頃から愛していた理由がわかった。

若様とは何をしていても楽しいが、理由はそれだけではない。

これだ、これが欲しいんだ!!


全て母から受け継いだ力で殺す。

和の一族を賊徒などと汚すな。

人を殺めることを禁止された〔武術向上〕は使ってはいけない。

だが、若様すら殺そうとしたこいつにだけは。


武術向上を使って、殴る、蹴る、刀で斬りつける。

そして吾輩は何故かここで、互いの感覚を自由に分けあえる〔感覚取引〕使った。

そして、一瞬だけこいつの全ての痛みを自分に持ってくる。




『ぐっ?!?!』




嗚呼これが一族の痛み。

死際の痛みがこれほどとは予想外だった。

あの痛みに、かつてないほどの興奮を覚える。




その行為によって人間がどうなるか、それが知りたかっただけだったのだ。

予想外、想定外。

それらを生むのは当然人間である。



そして、予想外では当然自分自身も予想外がいい。

そして、相手の反応をみるのもいい。

ただの痛めつける行為が、痛みが、これほどまでに快感になるなんて。


互いにスリルを背負って、相手の反応を楽しむ。

もしかしたら自分が痛めつけられるかもしれないという予想外が欲しい!!

だが吾輩は、魔法を使わなくたってギャンブルなんかには勝ってしまう。

若様でなくてはならないのだ!!

若様を痛めつけるか、痛めつけられるか。

痛みに耐えるのは嫌だ。

だが若様の痛みがなくなるのもいい!

必ず何か自分の嫌なことが起こる。

だがそれは必ず何かを得ることができるということ!!!






今はただ、痛がっている若様を………兄上を………堪能したい……!






「ぐっ!!はぁ……痛い?!」


「ふふふ…ふふ……」


「うっ!!あぁぁぁ……!!」


「兄上……いいや若様、喋ったら吾輩が死んでしまうと思っているんですか?」


「ん……あぁ………はぁ…」


「手なんて加えて……声を発しないようにしているようにしか見えませんね。大方予想通りです。ですが……人が痛がっている姿は本当に美しいですね。若様だと美しさが増します。」




時雨が笑顔で手当てを続けていると、エピンが必死に書いた文字を見せてきた。




【時雨は昔から賭け事が好きだったが、お前はこんな趣味をもったのか?】




震えて書いたであろうその文字を差し出した彼は、何故か不敵な笑みを浮かべている。

そんなエピンを見ると、時雨はとびきりの笑顔で言った。




「予想外、思い通りにいかないもの、痛めつけること、これらに興奮する趣味はもってしまいました♪ふふふ……ふふ…」




エピンと同じローブをきたこの従者は、フードを被りながら笑っている。

大事な人の大事な人が、嫌いだっただけ。

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