二十三歩目 「価値観と本当の関係?(II)」
「決して許されはしないこと
東のギターで弾き語るのは
カフェオレを否定するような
おかしい甘くない世界だし
そうして汚されはしないのに
そのあのええとで終わらせるのは
あれ俺を否定するような
おかしい笑えないまんまだな」
しかし、その歌声は思わぬ人物の耳に入ってしまう。
「この歌……吾輩と作ったあの曲………間違いない!!!!!!」
その人物はその声がする向かいの建物に走った。
雨に濡れようが、それは彼にとってどうでもいいこと。
むしろ雨を司るこの人物にとっては喜ばしいことである。
「〜♪」
エピンが歌っていた、その時。
声が聞こえるように開けた窓から、その人物が見える。
「その歌……困っているんですよね?ね?ね!」
「………?!」
「嗚呼、文字でしか会話できないことは勿論存じております。無理に喋らなくてもいい。」
エピンは、恐怖で震えた。
エピンのくらい深緑のような髪とは対象的な、透明感のある水色の髪。
整った顔に特徴的なオッドアイ、そして少しメイクをしている。
この男は………この男は………
一体誰なんだ?!?!
【なんで初対面なのに僕の名前を知っているんだ】
「吾輩と貴殿が初対面?!?!そんな馬鹿な!!」
【正直怖いんだが】
「血液型とかなら知ってますよ!AB型でしょう?!」
【四択クイズ正解おめでとう】
「いや違いますって!!じゃ、じゃあ……好きな食べ物は甘いもの!」
【それは大体みんな好きだ】
「え、えぇ?!」
【というか名乗ってくれないか】
「レイです。」
【フルネームで頼む、その格好は貴族か一族だろう】
「すみませんフルネームは名乗れなくて……貴殿に嘘はつきたくありません。」
【言い訳にしか聞こえないな】
「やっと会えたのに………あぁもう知りませんよ?!名乗っていいんですね?大声で名乗りましょうか?!」
【お前は変わっているな、雨が降っているから近所迷惑にはならないだろう、名乗れ】
「吾輩はどうなっても知りませんからね?!」
【分かったから名乗れ】
「すごく長いんでちゃんと聞いてくださいよ……」
彼は、思いっきり息を吸った。
「吾輩の名は、’’新 翡翠こと時雨・ゾア /レイ・アルバート=ブランシュ≠フィススタンツェ’’ です!」
【時雨って…………えぇ?!?!】
「いくら身長が伸びててもこの髪の色とかで分かるでしょう?!ほら見てください!!こんなに長い水色の髪の変態は世界に一人しかいませんよ?!」
【誇らしげに言うな!
そんなことをいったら深緑っぽくて黒い長髪のコミュ障靴屋も世界に一人だろう?!】
「……………確かに!!!」
【というか何故名乗った?!?!?!?!】
「貴殿が名乗れって言ったんでしょう?!」
【身元は知られたくない!!!というかなんでレイと名乗ったんだそっちはアルバート家の名前だろう?!】
「東の国の名前を名乗ったら今あなたが一番跡取りに近いのだから反逆罪ですよ?!一応アルバート家でレイって呼ばれてたし…………それより、なんて呼べば?」
【こんな時まで身分なんて窮屈だ
呼び捨てでもさん付けでもなんでもお前の好きにしてくれ】
「じゃあ兄上で。」
【それは是非とも遠慮したい!!】
新 翡翠こと時雨 /レイ・アルバート=ブランシュ≠フィススタンツェ。
この名前が覚えにくくて頭が良くてブラコンで大食いで最強で………………いや、この変態はエピンの弟だ。
弟と言っても異母兄弟だったために身分には少し差があり、この男はエピンの従者だったようなもの。
彼が珍しく心を寄せていた本物の〔人間〕である。
「あの、その歌を歌っていたということは………困っているんですよね。」
【覚えているのか】
「吾輩にとっては当たり前のことです。」
【なら当時の合言葉も覚えているか?】
「はい、それも当たり前です。」
弟は兄に向かって笑ってみせた。
しかし、エピンにはそれが従者の目上の者に作る笑顔に見えてしまう。
狂気的な彼の性格を知っているからか、エピンは冷たい目で彼を睨んだ。
【蜥蜴、だから運んでくれ。】
「仰せのままに。」
【弟からの忠誠なんていらない
ここでは気取らないで欲しいんだ
了承の意だけにしてくれ】
「………わかりました。あなたの家まで案内してください。」
彼はエピンと人形などを持ち上げると、トルテの店を後にした。




