最終章 百八十一歩目 「例え貴方が居なくても(II)」
その頃、エピンとエティノアンヌは、王城を整えていた。
「よし、これで掃除は終わり!これで、やっとエピンが王様になれる。あとはエピンの家具だけど………印鑑や通帳とか以外、置いてきちゃったね。大丈夫?」
【お金はある、それで買うから心配しないでくれ】
「お金って………まだあの時ノアがあげてたお金、使ってないの?偉いなぁ、ちゃんと節約してるなんて。」
【逆に、あの額をどう使いきれと言うんだ
というか、僕が節約していたわけではない】
エピンはその文字を見せた瞬間、大事なことを思い出す。
………大事なことというのは、お金を管理していた人物の行方だ。
【そうだ、時雨の遺体は?あとエイトのことも教えてくれ】
「思い出したの?」
【前に兄上と王城であった時に、ヴィオローネが教えてくれた】
「………あ、ごめん。」
【彼女が選択したことだから、別に良い】
「そっか。えっと………話を戻すけど、時雨はあの後埋葬したんだ。バンボラの遺体もね。あの女の子のことなら、優しそうなお爺ちゃんと、そのお付きの人に引き取られたよ。」
【エイトが無事でいてくれて嬉しいが、やはり時雨は亡くなったのか】
「うん。どうしたの?」
【だって兄上、時雨の応急処置はしたのだろう?】
「……………?!」
エティノアンヌは、少し動揺する。
何故、彼は処置したことを知っているのだろう?
心眼は使われていない。
処置のことを知っているのは、アリアとあの子供だけ。
彼を冷凍した教祖も、何に使うのかまでは理解していないのである。
やはり、これは疑いからくるブラフの可能性が高い。
それか……直前まで生きていたのだから、ノアが治療したと思われているのかも。
………………いや、待て。
万が一、エピンが時雨の応急処置をしたという事実を知っていたらどうする?
考えなきゃ。
仮に、ノアが時雨に処置をした事実は知られていたとしよう。
でも、エピンは時雨の死に疑問を持っていない。
処置をした事実だけ知っている………
しかし…………エピンは、あのボロボロの状態で、どうして処置したことを知ったのか?
どっちにしろ、処置をしたことを肯定すれば、エピンとは矛盾しない。
突っ込まれたら、どうして知っているのかを逆に聞くまでだ。
「なんで、ノアが時雨に応急処置したことを知ってるの?」
【あの時、無意識に皆の声を聞こうとしていたんだ、多分
朧気だが、人形と聴覚を共有した時、兄上の声を聞いたような気がして
その内容が、確か時雨を助けなきゃみたいな感じだった、みたいな
だが、最近思い出したから、信憑性にはかけている】
「感覚を?」
【知らなかったのか?視覚や聴覚や触覚などは、簡単に共有できるのに
まぁ、その人形に目や耳がなければ使うことはできないけれど】
「初耳……かな。人形と感覚が共有できるなんて、知らなかったよ。」
【だからそんなに焦っていたのか】
「え?あぁ、うん。」
エティノアンヌが頷いた、その時である。
「ちょっと待ったーっ!!!」
誰かが、王城に駆け込んできた。
……………なんと、その正体はアリサである。
【何故ここに】
「アリサ?!なんで?!」
「エピン……リサ、王政立て直すの手伝うわ。」
【それはありがとう】
「ねぇ、突然だけど、お願いがあるの。」
【なんだ?】
「人と話せないってことは、恋人いないでしょ?だから一生のお願い、リサと結婚して。」
二人は、その衝撃の一言に、今年で一番驚いた。
【巫山戯るのはよしてくれ、流石に冗談が過ぎる】
「アリサ何言ってんの?!えっ嘘でしょ?!」
「う、嘘でも冗談でもないわ!!お願い、形だけで良いから結婚して頂戴!!!」
【ますます嫌になった!】
「エピンが王になることを決めたとしても、国民は変わらず王族を嫌っている。王族内のトラブルで王政が崩壊したんですもの。その上結婚もしないとなれば、大バッシング間違いなし。さぁどうする?」
【そちらの思惑が分からない
お金や地位なんて、もう充分だろう?】
「…………償いよ。」
【それだけか?】
「あとは黙秘。エピンは、心の一族じゃないのに、心読めるんでしょう?」
【目を合わせなければ、心は読めない
感覚を磨くそちらとは違って、こっちは魔法なんだ】
「へぇ、相当上位の魔法かしら………………で、結婚は?」
【数日前に恋人を亡くしたばかりなんだが】
「えっ?!…………わ、悪かったわ。人と話せないと思っていたから。」
【人間と会話するなんて僕にはもう不可能だ、人間な訳がない】
「……………はぁ?」
【ちょっと伝え過ぎた、さっきのは忘れてくれ】
「もしかして、人形?それなら……」
【違う】
「じゃあ妄想?夢とか……それとも自分?」
【もうやめてくれ】
「はーい、ごめんなさい!」
アリサはエピンの前で軽く頭を下げ、笑ってみせる。
ちなみに、エティノアンヌは、エピンの恋人を妄想と言ったアリサにツボっており、その後もしばらく静かにツボり続けていた。




