百七十四歩目 「暫しの別れ(I)」
その頃、エピンはメイに、自分が作った靴を見せていた。
あの後エピンが二人を問い詰めてからは、なんとなく気まずかった為、暫く話していなかった。
決して亀裂が入った訳ではないものの、三人はこの関係や現状に違和感を抱き、あまり会わないようにしていたのである。
【来てくれてありがとう】
「は、はい……」
【メイ、今日は少し長くなるかもしれない】
「あの、なんか、気まずいんで………要件は短めにお願いできないッスか?」
【分かった、善処する
じゃあいきなりだが、この靴を見てくれ】
「な、なんだ、そんなことか……」
メイは、彼にメロンパンを届ける時以外、あれ以来あまり会話をしていない。
エピンに何を聞かれるかと、不安で仕方なかったが、そこまで重い話ではなさそうだ。
…………そう思っていたメイの前に、エピンが靴を置く。
「こ、これ…………」
思わずメイは、自分の足元を見た。
「エピンさん、この靴は?!」
【メイの靴を最初に見た時、僕は衝撃が走った】
「ど、どういう……」
【要は、すごく好みだったんだ
だから、僕の靴のデザインに取り入れようと思って】
「でもこれじゃあ、取り入れるどころか、全く同じッスよ?!」
【それは分かっている
だが、いくら違うものを思い描いても、全く同じになってしまって
魔法で作っているから、普通、多少のズレくらいはあるのだが】
「そんな……!」
メイの前に置かれた靴は、メイの靴と ”全く同じもの” だったのだ。
何度見ても、二つには少しのズレもない。
布の色はエピンが用意したものだが、微妙な大きさや縫い目の数まで同じなのである。
メイも、そしてこれを作った彼自身も、異常を感じていた。
………………いくら、同じにしようとしても、絶対にこうはならない!!
【だけど、僕はやっと分かったんだ】
「何が、ですか?」
【メイが今履いている靴は、きっと僕が作ったものなのだろう】
「……?!?!」
彼は、エピンの頭が狂ったのかと思った。
【僕がこの靴を作る時に、込める願いは、いつも同じだった
メイやトルテと、美味しいメロンパンとお菓子を、ずっと一緒に食べていられたら良いな
この靴を作ろうとすると、どうしても込める願いがそれになってしまう
物理的な願いしか、叶わないはずなのに】
「エピンさん………」
【きっと僕は、一回全部失ったんだ
本当に信じ難いが、僕が昔読んだ童話は、事実だったのかもしれない】
「童話?」
【決められた運命という、童話を知っているか?】
「い、いいえ。」
【その中で、主人公は人生を何度もやり直す
それが、実際に起こっているのではないかと、僕は思うんだ】
「………………」
【メイの靴は、僕が作ったもの
そして本来だったら、出会ってすぐに完成するはずのものだった
何度繰り返しても、全く同じ靴ができてしまうから、やり直していたけれど】
「本気で言ってるんスか?」
【僕は最初から本気だ】
「それって、オレが………オレの意思で行動してなかったってことになりますよね。いつかのエピンさんの願いを叶えるために、靴の力が働いて、オレを動かしてたってことになりますよね。」
【言いにくいが、そうなるのかもしれない】
「ふっざけんな!!!」
「?!」
「だったら、オレ、誰も救えてないじゃん………」
「………………!」
「エピンさんのことも、トルテさんのことも、救ったのはこの靴で、オレじゃない!!」
【それは違う】
「違くない!!」
【違うと言っている】
「エピンさん………オレ、妹も親父も守れてないんです。」
【どういうことだ】
「オレ、やっと二人のこと、ちょっとは救えたかなって思ってました。でも………違ったんでしょ。大事な人の支えになれたと思ったけど、それは…………靴のおかげだった。」
突然失礼します、作者です(・▽・)
知ってる方もいるとは思いますが、決められた運命という小説は "実在" します。
この場面、自分で言うのもなんですが、これだと少しこじつけに見えますよね()
でも、そちらの小説を見れば、これが空想だとは思えなくなるかも………?(宣伝です、同じ人が書いた小説なので)
他にも色々な小ネタがありますが、完結したらまとめたいと思います!
ではでは( ・▽・)ノ