百六十一歩目 「里帰りする?(III)」
棟梁代理と、男は、蘭羽という女の手を借りに行った。
………彼女の作業部屋に着くと、棟梁代理は、彼女を呼ぶ。
「蘭!」
「あら、どうしたのよ。というか、あんためっちゃ汗だくじゃない?」
「なぁ蘭、電話対応してくれません?」
「えぇ?!なんで?!」
「だってその電話相手、翡翠様を保護してるらしいんです。」
「絶対嘘でしょ!!」
「そんなん、わかりませんて!!」
「あんた馬鹿なの?!そんなことで突然電話してくる人いる?!」
冷静な蘭羽の言葉は、彼の耳には届かなかった。
「桃簾様のためなんです!!!!」
棟梁代理は思わず、自身の主の名を口にする。
「ほな蘭、行きますよ!」
蘭羽は、彼に腕を捕まれ、そのまま引きずられるように、電話の音に近づいていった。
「桃簾様、桃簾様って…………あんた、普段はおしとやかなのに、桃簾様のことになると、変わるわよね。」
「俺はそんな、皆が言うほど、そんな人間じゃありませんよ…………というか早う走ってください!」
「…………ねぇ、あんたさ。」
「なんですか?」
「その……ね?えっと、あっ…………」
「………………遅い!!もう俺が電話でます!!!じゃあ!!!!」
「えっ?!ちょっと待って!!」
エティノアンヌがしばらく待っていると、保留音が止まった。
そして…………それと同時に、男の声が耳に入ってくる。
「お電話変わりました。俺は棟梁代理の、雷丸って言う者です……………翡翠様の件、よう聞かせてくれませんかね?」
綺麗だが、威圧感のある雷丸の声に、エティノアンヌは少し物怖じした。
「初めまして、翡翠様のことですね。私は、エレノア家当主、エティノアンヌ・ヴィラール・カルティエ・クレール=マインドハート=エレノア。先日、記憶喪失の、翡翠様を保護しました。」
「は?貴方、全く辻褄合ってないんやけど。殺…」
「あぁ、言いたいことは分かりますから。なんで記憶喪失の、人間の名前知ってるのかとか、そう言うところですよね…………あの、実際会って全部話すとかでは、ダメですか?」
「理由を教えてください、皆が怒りはるんで。」
「あの、できれば内密にしたいんです。」
「あのなぁ………俺は、貴方にその理由を教えて欲しい言ってるんです。どないしはりました?」
「……………国際問題に発展しかねないので。」
「国際問題?いちびるのも、その辺で終わりにしたほうがいいと思いますよ。」
「えっと……………」
「でも、実際会えるなら、貴方について考えるのも、まぁよろしいなぁ。明日とかどうです?」
「いや、三日後で…………と言うか、翡翠さんは、今エレノア家の屋敷にいるんですよ?!北の国から一日で東の国に行けるわけないじゃないですか!」
「そんなん、承知の上ですけど…………もう、堪忍してください。」
「…………………え?」
「じゃあ三日後に、また…………四日後にも会えたらええですなぁ。」
ガチャ
ツーツー
…………電話は切れた。
エティノアンヌは、大失敗したような気は薄々感じつつも、とりあえず会えることになったので、一安心する。
「ねぇ翡翠、スピーカーにしてたから聞こえてたと思うけど、とりあえず、三日後とリーダー代理の人と会えることになった!!来たばっかで悪いけど、早速荷造りしてね。」
「それより、ずっと相手怒ってましたけど、大丈夫ですか………?」
「………え?まぁ、最初は確かに怖かったけど、そんなことはないと思う。」
「いや、ずっと怒ってましたよ!!」
「そ、そうかなぁ………」
こうして翡翠は、なんだかんだあったが、元々いるべき場所に、帰ることになった。
遠くに行くのなら、正直何でも構わない。