百六十歩目 「里帰りする?(II)」
「だって、もう一人兄弟いるの隠してたんでしょう?」
「…………………あれ、それ誰から聞いたの?」
「えっと…………」
「まさか………リアから聞いたの?リアを脅して聞いたの?ねぇ?リアに何かしたの?リアを傷つけたの?」
「違います違います!!アリサ様からですよ!!しかも、向こうからほぼ一方的に。」
「まさか、アリアの目を盗んで、翡翠に?あーあ、ちゃんと手を打っておくべきだったか……………で、記憶は?まぁ、ノアのこと殴ってないから大丈夫だよね。」
「戻ってませんし、殴りもしません。けど……………吾輩に何かいうことがあるのでは?」
「はい、ごめんなさい………………確かに私は、翡翠に嘘を吐いていたね。まぁ一族に戻ってもらおうと思ってたし、ちょうどいい機会だ。和の一族に連絡を入れよう。」
「連絡とは?」
「東の国の一部の人々は、とある事件で君と音信不通になって三年くらい、ずっと君のことを国中で探してるから。電話かけたら繋がるよきっと。」
「……………えぇ?!」
翡翠は、とても驚いた。
一族の人間が、ずっと自分を探していることにも驚いたが………何より、三年間探し続けて、自分を見つけることができなかったことに、衝撃を隠せない。
たった一人の人間を見つけることができないなんて、探している人間の目は節穴なのだろうか?
実際の所、翡翠を捜索している人々は、彼を探す手がかりをほとんど持っていなかった。
見た目や背格好どころか、捜索している人々が知っていたのは、新翡翠という名前のみである。
彼は別の名前を名乗って生活していたので、見つかる訳がない。
「突然ですがお義父さん、今から和の一族に連絡を入れようと思うのですが、エレノアの性を名乗ってよろしいでしょうか?」
「構わないよ、もう事実上の当主は君だし。」
「ありがとうございます。」
プルルルルル………
「お電話ありがとうございます、こちら和の一族、連絡担当部の、田中と申します。」
「突然すみません。私は、エティノアンヌ・ヴィラール・カルティエ・クレール=マインドハート=エレノアという者です。現在、新翡翠殿を、こちらで保護していまして、そちらでお引き取りいただきたいのですが、日程に希望はありますか?」
「……………え?」
「荷造りも含め、こちらとしては、三日後くらいが望ましいです。」
「お手数ですが…………も、もう一度だけ名前を要件をお願いできますか?」
「エティノアンヌ。ステファーヌ・ヴィラール・カルティエ・クレール=マインドハート=エレノアという者です。現在、新翡翠殿を、こちらで保護していまして、そちらでお引き取りいただきたいのです。その日程を………」
「しょ、少々お待ちください!上に代わります!!」
保留音が流れる。
エティノアンヌは、流石にマズかったかと思い始めた。
色々面倒臭くて、思わず手っ取り早い手段を選んでしまったが、戸籍を作り直したのはついさっきで、まだ明確な地位があるわけではない。
翡翠本人の声を聞かせたところで、翡翠本人だと理解できる人間など、一人もいないだろう。
その頃、その情報は連絡部、伝達部、棟梁直属の配下を通して、棟梁代理の耳に入っていた。
「棟梁代理!!!」
「…………なんです?ま、そんな焦らんでもええじゃないですか。ゆっくり話してください、なぁ?」
「新翡翠様を、保護している人間がいるとの報告が、連絡部から入りました!!」
「それ、ほんまに?!」
「はい!信憑性は確かではありませんが………」
「その相手の番号は書きはりました?」
「はい、そして、今もまだ待ってもらっております!現在、返事を考えている最中でして……」
「…………………」
「………棟梁代理?」
「待て、まだ信用できひん。電話変わってください。」
「え、でも………」
「相手の名前はなんて?」
「えっと……………すごく長いそうです。」
「すごく長うて………………まさか、それだけですか?」
「は、はははは…………はい!」
「まぁ、分からんもんは…………しゃあないですなぁ。とりあえず、蘭呼んでくれん?流石に、俺が電話出るのはダメです。とりあえず、蘭に出てもらいますわぁ。」
「わかりました!蘭羽様に、至急電話の対応をお願いして参ります!!」
「あぁ…………言っとくけんど、俺も、蘭についていきます。やから、貴方について行きますよ?」
「了解です!」