百五十四話 「本性は?(IV)」
サンドラは、珍しい生誕魔法が使える。
心の一族の人間と、遠距離からでも、視覚や聴覚、一部の感覚を共有したり、意思などを疎通できる魔法だ。
この魔法に相手の意思は関係なく、サンドラから一方的に共有を初め、一方的に切ることができる。
前当主の、お祖父様から遺伝したものらしい。
この魔法は、意外と使い所がなさそうだが、案外使えた。
花火大会、サンドラ以外の家族みんなが、熱を出したことがある。
がっかりしていた、みんなのために………サンドラは一人で屋敷の屋上に上がって、視界と聴覚を共有した。
みんな、とっても喜んでくれた。
パパがアレルギーで食べられなくなったものを、サンドラを通して、味と食感を体験してもらったこともある。
とても喜んでいたパパの顔を、今でも覚えている。
他にも、たくさんたくさん喜んでもらったのに。
もう一人いた ”らしい” お姉ちゃんの捜索に、この魔法を使ってからは、何も楽しくなくなった。
毎日サンドラが、決まった時間に魔法を使い、姉との意思疎通を始める日々。
お姉ちゃんが聞いている音を、サンドラに共有し、それをアマンダに共有することで、嘘を暴けるからだ。
必死に仇を打つために、お姉ちゃんは毎日毎日、サンドラたちに魔法を使わせる。
あんなに大好きだったお姉ちゃんに、少し不信感を抱くようになった。
それを止めないパパとママも、どうかしてたんじゃないの。
生きてるなら、探したくなる気持ちも、まだわかる。
でも、パパの頭に流れ込んできたんでしょ、四肢を切り取られたそのもう一人の姉とやらの姿は。
お墓参りとかはわかるよ、なんで死者に全てを捧げるの、なんで、ねぇなんで。
サンドラとアマンダ、その人の顔も知らないんだけど。
ママもパパもお姉ちゃんも、みんなそう。
そのもう一人のお姉ちゃんが大事だから、サンドラを利用するために育てたの。
大好きとか言わないで、娘を愛してる自分が大好きなだけでしょ。
ごめんねとか言わないで、だったらサンドラとアマンダを産んだことにごめんねって言えよ。
パパ、ママ、サンドラはね、愛してるって言われても………………それが本当かどうか、魔法で確かめる勇気なんて、ないよ。
新しいお姉ちゃんに興味なんてないから。
ていうか…………サンドラたちの時間をたくさん奪ったのに、まだ何か奪うの?
なんでよ、死んだんでしょ、あなた。
どうして死んでてくれなかったの、またみんな、あなたのことを好きになって、サンドラはほったらかし。
サンドラは、笑えなくなった。
けど隣にはいつも、にっこにこのアマンダがいる。
笑い方なんて忘れた、最後に楽しかったのいつだっけ。
パパやママや、お姉ちゃんに、ぐだぐだと甘える。
………サンドラはアマンダみたいに笑顔じゃいられない、だから、みんなに抱きつくの。
「…………お姉ちゃん、サンドラのこと好きじゃないんだ。」
「サンドラ、なんでそんなこと言うの!」
「サンドラのこと、好きじゃないから怒るんでしょ。」
「子供みたいなこと言わない。」
なんですぐ否定してくれないの。
好きだよって言ってくれないの。
分かってる、サンドラが悪いことは分かってる。
「せっかく、リアとエティノアンヌが、会いに来てくれたのよ。良い加減、我儘言わないで!」
ごめんね、お姉ちゃん。
アマンダみたいに良い子じゃなくて。
俯くサンドラと、怒っているアリサの所に、アリアが来た。
「お姉ちゃん!」
「リア!」
バッ!
姉妹は互いに駆け寄り、抱きしめ合う。
アリサの表情は、先程怒っていたとは思えないほどに、晴れやかだ。
「結婚の許可もらってきた!パパが、ノアの戸籍作り直して良いって!」
「良かったぁ、ほんと安心したわ。ところで、そのエティノアンヌはどこ?」
「……………今パパと、お互いに、リアとママの良いところについて語ってる。」
「あららら…………」
本心が知らないうちに、勝手に死んだの。