百五十三話 「本性は?(III)」
「記憶を失ってるとは聞いていましたが、こんなにも、小賢しい真似をする方だったなんて、知らなかったのですよ。」
「我輩は、かつての我輩がどんな人間だったかは知らない……………だから、我輩自身も、こんなにも己が、小賢しい人間だったなんて、知りませんでした。」
「…………………………チッ。」
「………………アマンディーヌ様?」
アマンディーヌは、これ以上誤魔化すことが無駄だと、そう悟った。
「…………誰にも、ホントのこと言わないでよ。ママとパパ、お姉ちゃんはもちだけど、サンドラにも。言ったらマジであんたのこと殺すからね。」
「条件付きでいいなら、了承しますよ。」
「分かった、でも返事して。」
「ふふふ………はぁい♪」
「このキャラにビビんないんだ、あんたつよ。とりま、今この場で言って、アタシの素、絶対に誰にも言いませんって。アタシもあんたのこと、言わないから。」
「はい、アマンディーヌ様の本当の姿は、絶対誰にも言いません。」
「嘘はついてないのね、ならいいわ。あぁ後さ、カッター消毒してたのは、リスカの為。じゃ、この話終わりでいい?」
「構いません。」
「え、それだけって…………ホントマジで、あんた何したかったの?」
「他人の弱みを握りたかっただけです。アマンディーヌ様は、生誕魔法で、嘘が分かってしまうようでしたし、先手を打っておかなければと思いまして。」
「…………確かに、もう一人のお姉ちゃんの婚約者の弟とか、しっかり守ってもらえる立場ではないしね。記憶ないんなら、心の一族と友好関係にあった、和の一族だよって言われても、信頼できなそ。」
「その通りです。」
「あんたの魂胆は分かった。いくらママが仲良い人の嘘を暴ける能力があっても、あえて怪しい行動を撮り続ければいい。周りから怪しまれていても、嘘が暴けるアタシと仲良くしていれば、行動しやすいって考えてるんじゃない?アタシがあんたに協力することが条件、違う?」
「それも、その通りです。」
「……………そう。」
アマンディーヌは、苦笑する。
ずっと笑顔を崩さない翡翠の姿が、自分と重なったのだが、それが何か、おかしく見えたのだ。
「気持ち悪いくらい素敵な、営業スマイルね。」
「ふふふ、営業スマイルなんて、そんなぁ!心からの笑顔ですよ。」
「アタシが嘘を見抜けるって知ってるのに、嘘を吐くなんて………可笑しい。」
自分とは違う、その自然な作り笑い。
……………こんな風に笑えたら、どんなに不幸を被ってしまう、アタシみたいな人間でも、少しは幸せに見えるかも。
彼は、今までどんな風に生きてきたのだろう。
彼の人を殺したことがあるような目は、自分という人間を殺した目?
それとも………………本当に、誰かを殺したの?
「……………アマンディーヌ様。」
「何?早くして。アタシ、リスカして寝たいんだけど。」
「吾輩のことについて、周りが何か言ったら………教えてください。吾輩の話の最中に、嘘が聞こえたとか、些細なことで良いので。」
「分かった、じゃね。」
「はい、また。」
「お姉ちゃん。」
「なぁに、サンドラ。」
「今日、もう一人お姉ちゃん増えるんだっけ?」
「そうよ。」
「…………そっか。」
「せっかくだし、魔法使って、リアと脳内で会話してみたら?」
「……………………サンドラ、そういうの興味ない。」
「そうだ、エティノアンヌも心の一族なのよ!だから仲良く……」
「嫌!!」
「こらこらサンドラ、我儘言わない。さっきも翡翠にひどいこと言って………ちゃんとしなさい。サンドラは良い子なんだから。」
お姉ちゃんは、サンドラを良い子だと言う。
パパもママも、サンドラを良い子だと言う。
聞き飽きた。