百五十二話 「本性は?(II)」
アタシ、あれないとやっていけないんだけど、どうしよ。
自分が生きてることを確認しないと。
体の痛み感じても、心の痛み感じても、血流さないと生きてるかわかんないじゃん。
アマンディーヌは、部屋を飛び出した。
カッターが落ちていないか、必死に探す。
しかし、どこにもない。
親に見られたら終わる、お姉ちゃんに見られたら終わる、サンドリーヌに見られたら終わる。
手袋をしたまま、彼女は必死にカッターを探した。
その時、アマンディーヌの前に………誰かが現れる。
「どうかなさいましたか。」
「え…………あぁ、翡翠サマだったのですよ〜♪びっくりしたぁ、何かと思ったのですよ〜♪」
「すみません、聞きたいことがありまして。……………これはアマンディーヌ様のものですか?」
「…………?!」
翡翠の手には、探していたカッターがあった。
アマンディーヌは、一瞬動揺してしまう。
何故彼が、カッターを持っているのか、アマンディーヌにはわからない。
「このカッター、アマンディーヌ様のではないのですね。だったら、他の皆様に聞いて回って……」
「そ、それ!アマンダのなのですよ〜!探していたのですよ〜♪」
「あら、そうだったんですか。じゃあこれはお返しします。」
「ありがとうなのですよ〜♡」
「ところで、そのカッター、何に使っているのですか?」
「切り絵用のカッターなのですよ〜♪」
彼女が切り絵やっているのは本当だった。
だが、彼女はカッターではなく、ハサミを切り絵に使っている。
もともと、このカッターは自分を傷つけるためのものだ。
家族に知られたらまずい。
例え、真偽を問われても、切り絵をやっているかという答えそのものはイエスになる。
わざわざカッターのことは聞かないだろうし、大丈夫だろう。
「すごいですね!どうやって作ってるんですか?」
「いや、切ってるだけなのですよ〜♪」
「切るだけ…………すみません、切り絵の制作過程を、簡単なものでいいので、見せてもらえませんか?我輩には想像力が足りません………」
「な、なるほど……なのですよ?」
どうしよう、いつもハサミでやってるのに。
ただでさえ手袋は外せないし、カッターで、切り絵できるかな?
まぁ、手先は器用な方だし、簡単なもので良いって言ってるから、誤魔化せるはず。
「分かったのですよ〜!ちょっと道具を、持ってくるので、待っていて欲しいのですよ〜♪」
その後、アマンディーヌは、なんとか切り絵をカッターで完成させた。
「ありがとうございました、見ていてとても楽しかったです。」
「それは良かったのですよ〜♪翡翠サマが喜んでいると、アマンダも嬉しいのですよ〜♡」
「カッターでの切り絵、初めてとは思えないくらい上手でした。また見せてくださいね!」
翡翠の言葉を聞いた瞬間、彼女の表情が、一瞬だけ崩れた。
「初、めて……………アマンダには、ど、どういう意味か、よく分からないのですよ〜?」
「よし、やっと本来の貴殿が見えてきた。」
「……………あの、どういう意味か、アマンダは頭が悪いから、分からないのですよ〜♪」
「大丈夫です、別に誰にも言ったりしません。我輩は…………ただ他人の本性を見て、安堵したいだけ。」
得体の知れない恐ろしさを、アマンディーヌは、ただただ感じている。
翡翠は、何がしたいんだ、何者なんだ?
アマンディーヌの笑顔はどんどん崩れていくのに、彼の笑顔は崩れない。
「切り絵をする時、アマンディーヌ様はカッターを消毒していなかった。」
「…………それが何か?」
「あのカッター、すごく消毒液の匂いがしたのに。気になって、思わずカッターをポケットから抜き取ってしまったくらいです。」
「あー、今回は、たまたましなかっただけなのですよ〜♪」
「抜き取ったことには、突っ込まないんですか?」
「あ…………まぁ、別にぃ?」
「猫を被り続けたい気持ちはわかりますが、流石に必死過ぎますよ。それに…………なんで手袋をしたまま、切り絵を?」
「それは…………」
「アマンディーヌ様は、紙を押さえる、左手の力の入れ方が、とても不自然でした。」
「ど、どこ見て……?!」
「貴殿の本性が知りたい…………我輩にとって、同類の目ほど、怖いものはありません。」
「……………ちょっと、やり過ぎなのですよ。」
「承知の上です。でも…………行動原理や、具体的な欲求が見えない人間と、同じ空間には居られない。」
「翡翠サマの目、すっごく、怯えた目なのですよ。アマンダと同じ………目なのですよ。」
「…………………」