十七歩目 「この言葉は楽しい!」
翌日の真夜中。
「お疲れ様でした。」
「本当、災難でしたわね。」
「そちらこそ。」
【あの客は本当に怖かった】
「エピンさんが人を怖がるのはいつものことでしょ。」
【否定できない( ;∀;)】
「その通りですわね。」
三人は、男からの開放を改めて祝った。
ちなみに、この間既に解放されたと思って祝ってしまったので、実質二回目である。
「ぴっちゅ♪」
【エリーゼ、最近はこの牧草のクッキーがお気に入りみたいだ】
「あらまぁ、嬉しくってよ!でも少し悩みがあるんです。ミミズクさんは肉食だから仕方ないとしても………ハムスターさんたちとモルモットさん達、リスさんがクッキーを食べてくれませんの。どうしたらいいでしょうか?」
「ぴちゅぴ!」
【木の実をベースにすればラナやリナ、ルナにレナも、さらにジャスパーも食べるらしい
エリーゼが言うなら間違いないだろう】
「本当に?参考にしますわね!」
「いや動物と話せる所つっこませて?!あとここ動物何匹いるんスか?!種類の解説もお願いします。」
【僕の家族は、木兎のヴィオローネ、デグーのエリーゼ、ジャンガリアンハムスターのラナ、リナ、そしてクロハラハムスターのルナ、レナ、そしてシマリスのジャスパー。ジャスパー以外は皆女性だ
あと、動物とは生まれつき話せる、言っていなかったか?】
「え?庭によくいる猫や小鳥たちは違うんスか?」
【なんとなく一緒にいるだけ
だから名前はない】
「それより、この大きな子はモルモットじゃありませんの?!」
【モルモットのように大人しいものではない
ハムスターの中で一番縄張り意識が強いし、加えて一番野生的な種類だろう】
「えぇ?!ここに一匹いる子はこんなに大人しいではありませんか!」
【ルナもレナも、二人は小さい時から一緒にいたからな
子供の頃から一緒に過ごすのは難しいが、過ごせば仲良くなれる】
「なるほど、だからこんなに懐いてるんですわね。」
【いいや、たまたまここにいるルナが珍しくおしとやかな性格だっただけだ
レナは、かなりパワフルだから別室で過ごしてもらっている
あと、懐くという言い方は少し違うんじゃないか?
仲良くなるという言い方が好ましい】
「ご、ごめんなさい!」
【別に気にしないでくれ
ただ、僕は彼女らを一匹ではなく一人として見ているだけなんだ
違うのは見た目と寿命と食べるもの
飼っているわけではなく、一緒に暮らしている感覚に近い
会話ができて感情を共有できる、大事な家族だと思っている】
「なんか、素敵な関係ですわ。」
「というか、ここって不思議な構造の家ッスね。動物家族第一家で済むのに丁度いいっていうか………」
【当たり前だ
この家はオーダーメイドだし】
「えぇ?!最近越してきたんですよね?!で、でも建物自体は前から………」
エピンは、とても嬉しかった。
家族のことを種族的な人間に話したこと。
それが初めての経験だったのだ。
話すことを強要されない。
彼にとって、それはとてもリラックスできる要素の一つ。
昔エピンは、ずっと話せなくなった原因を聞かれ続けて苦しくなってしまったことがあった。
どうして喋れないのか、どうして話したくないのか、全て話して欲しいとお願いされる。
聞かれたくない……それに怖いだけで、そこまでの理由はないのに。
正直に言っても、正直に言えという声が増えるばかり。
紙に書こうもんならさらに心配されてしまう。
しかし、その者たちに悪意はなかった。
エピンを孤独から救い出そうとしてくれたことに変わりはない。
彼らは誰よりもエピンを思っていただろう。
…………皆が彼に怯えるなか、救い出そうとしてくれた人達なのだから。
しかし、善意による周りの行動が、エピンの言葉をかき消していたのである。
メイは、少々頭のネジが外れかけているが、適度な距離感を保ってくれる人物だ。
知りたいことは教えてくれと正直に言ってくれるが、言いたくないことは言わなくていいと言ってくれる。
トルテは、様々な間違いをしても、素直に謝り相手の価値観を尊重していた。
彼女は世間知らずな部分を、相手のことを思うところでカバーできる。
そんな寛容な二人の行動の一つ一つが、エピンに人と繋がることの嬉しさを教えたのだ。
【すまない、つい長文を書いてしまった】
「楽しかったッスか?」
【現在進行形で楽しい】
「ならいいんですよ、オレたちとのコミュニケーションを楽しいと思ってくれるなら。」
「出会った頃より表情が豊かになってますし。」
二人がエピンに向かって笑った、その時…………
「ふふふ…ふふ……」
「わ、笑った!!」
「いや赤ちゃんじゃないんですから!」
「ふふふ……おか……しい………」
「仮面からわずかに目が見えます!目を細めていますわ!」
「口角も上がってる……ほぼ真顔だったのに。」
「楽……し…ふふふ……!」
「怒りに任せた声じゃない…………幸せそうな声が聞けて嬉しくてよ。」
「楽しいなら、何よりッスね。」
今の彼の笑顔と言葉は、〔楽しい〕から来たものだ。