表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/205

外伝 「馬鹿と桃色に染まった頬(II)」

「雷丸、兄様を暗殺した人はどうなった?」


「染人様をころしよった奴は…………おれが殺しました、染人そめと様を守れず、本当に申し訳ありません。」


「あんなに強い貴方でも、そんなに傷が………………」




雷丸はかなり強い。

…………だが、彼はたった四歳の、幼い従者である。

兄様を殺した人間は、こんな子供相手に、本気で向かってきたの?




「…………雷丸。」


「ぐすっ………うぅ、ひぐっ………」


「無理をする必要はないわ。」


「………!」


「…………………おいで。」




妾が手を広げると、雷丸が飛び込んできた。




「あぁ、あ………うわぁぁぁぁぁぁ…………!!!」


「それでいい、泣いていいのよ。」


「染人様の嘘つき!!一緒にいるって、言いはったのに!!!おれ、どうすれば…………先生せんせに、なんて言えば………悪い子って言われてまう。」


「雷丸はいい子。兄様の言葉を守って、兄様に何かあるまで手紙を開けなかったんだもの。」


「うぅ………」



二人だけなら、たった一つ幸せになる方法がある。

だけど………妾は………………




「雷丸、妾は………王城で踊り子になるわ。心の一族に土下座して。」


「そんな!お、おれは、どうすれば…………和の一族は、どうなるんです?!」


「もう少し大きくなるまで、妾の友達のところにいてもらう。心の一族の友達がいるの、ステファーヌって子。年上なんだけど、無邪気で可愛い子よ。」


「あの!!それだと、おれはよくても………………貴方様が………………………」


「妾は大丈夫。いつか和の一族を、取り戻すわ………………だから雷丸、それまで待っていてくれる?」


「は…………はい!!」




ごめんね雷丸、嘘ついて。

妾は、絶対に帰って来れない。

踊り子になったら、元の国には二度と帰れないし、誰かに買われないと結婚も許されないから。


でも、これしかないのよ。

……………妾たちが生きる方法は。





「_____ 桃簾とうれん様!!」





妾は、名前を呼ばれて思わず振り返った。




「絶対、絶対ですよ!ずっと、待ってますから!」




あぁ、馬鹿みたい。

妾は……………兄様より、ずっと馬鹿だったのかしら?



















雷丸と別れて、三年くらい経っただろうか。

妾は、奇跡的に踊り子の才があったようで、今では、一人で舞って欲しいと頼まれるほどの、そこそこの踊り子になっていた。


周りにも恵まれ、華やかで美しい生活を過ごしている。

なんだかんだこのまま老い、他の踊り子を指導する道に行くのも、悪くないと思えるようになった。



だが……………平穏というものは、いつも簡単に崩れ去る。




「………………お前、名は?」




男に、声をかけられた。

先程………妾たちが踊った広間にいた者かしら。

でもなんか面倒だし、無視よ無視。

また、この額にある一族の模様を、蔑まれるに違いない。



スタスタスタ……



……………待って。

さっきの人、もしかして王様?

いや、先代は亡くなられたけど、まだ儀式は済んでいないから、不敬罪には当たらないわ!

王子を敬うことは強制ではないから、大丈夫なはず。




「そこの娘、待ってくれ。」


「……………」


「僕の声が聞こえないのか?」


「…………………」


「踊り子の娘!待てと言っている!!」




しつこい!!

王子だからって、何しても許されるわけじゃないの!




「さっきから何度も何度も、一体どんな御用でしょうか!!」


「髪飾りが左右で違う。」


「…………………?!」




やってしまった、どうしよう。

こんなことで信用を落とすなんて馬鹿みたい。


それに、この人はそれを教えに来てくれたんだ。

普段話しかけてくる人間が、ナンパとか一族の悪口を言いにくるとかだったからって、決めつけてた。


馬鹿、最低、最悪。




「す、すみません。私………」


「安心しろ、皆には〔堕遊戯〕で幻覚を見せておいた。」


「え?」


「お前は踊りが上手い。妬まれ、髪飾りを背後から変えられてしまうこともあるだろう。」


「ど、どうしてこんな私に、そんな魔法を?!私は東の……」


「自分に流れる血で、己を否定するな。」


「……………!」




そうだ、自分を血で否定したら駄目だ。

雷丸、蘭、兄様も、全て否定することになってしまう!!


こんな変な男に、再認識させられるなんて。




「僕はお前の踊りが見られなくなるのが嫌なだけで、他意はない。僕は踊りが好きなんだ…………まぁ、踊る方が好きだが。」


「踊る………男が?変なの。」


「確かに、踊るのが好きな男は珍しい。だが、正直………権力も政治も女道楽も、全てどうでも良くてな。紋様を継いだというだけで、それら全部と一緒に、いらない塵もついてくる詰め合わせパックだ。今の僕には、踊りくらいしか楽しみがない。故に娘、お前の舞が見られなくなると、困る。」


「そこまで言い切るんですね。」


「あぁ、今の僕なら、何があっても君を守るだろう。」


「……………気色悪い。」


「ふふ、僕にそんなことを言って、大丈夫なのか?」




そう言って、彼はどこかに行ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ