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外伝 「馬鹿と桃色に染まった頬(I)」

両親が亡くなった後…………………兄四人が、互いに跡継ぎを巡って、争いあって死んだ後、残ったのは、五人目の兄と、その妹のわらわだけ。



五人目の兄様は、全く政治に興味がなく、勉強などせずに、いつも外で遊ぶのが好きな人だった。

兄様に知識がないことを知ってか、たった一人残った跡継ぎの兄様を、皆が利用しようとしてくる。


妾は、兄様を守り続けた。




「兄様、この書類に、お名前をお願いできるかしら。」


「わかった…………あれ?こっちのには書かなくていいのか?」


「馬鹿なの?!こっちは、不当な取引を認めてしまうような書類でしょう!!そのようなものは、全て妾が省いてるのよ。」


「ありがとな………………だが、やはり我にはよく分からん。」




跡継ぎは、もう兄様しかいない。


兄様が成人するまでは、妾が当主になることは不可能だ。

…………東の国の当主は、成人した男しかなれないという、決まりがある。

兄様を一度当主にし、東の国の掟を変えて、妾が成人すれば、当主になれないこともないけれど………



兄様が死んだら、分家の者が当主になるだろう。

その後、妾が息子を授かれば、実権はこちらに移るが、それを警戒されて、分家の者に殺されるに違いない。

女に産まれたから結婚しなければいけないという常識も、癪だ。


あーあ、ほんと……くだらない人生。

頭の弱い兄様を生かしながら、必死に怯えて生きている人生なんて。





人間なんて単純。

ちょっと観察すれば、思考くらい簡単に読めるんだもの。

最初は母様に、これが生誕魔法だと、勘違いされたほど、妾には、人間の心を読む才能があった。


妾はにっこり笑って、適当に相手の望んでいることをすれば良い。

その望みに答えられないと思ったら、相手の手の内を調べ尽くして、溺死させるだけ。




この生誕魔法さえあれば、溺死させることなんて簡単だった。

水を操り、雨を降らせることもできる生誕魔法。




水を宙に浮かせ、口と鼻を覆えば、人間は簡単に死ぬ。




温度も、100℃から10℃くらいまでなら、変えられた。

短気な来客にも、即座にお茶を用意できるので、温度が変えられるのはとても便利だった。

まぁ、熱いお湯にするためには、怒りの感情が必要で、冷水にするためには、冷静でいなければいけないのだけれど。


……………短気な客相手にイラついても、即座にお茶を出せるのは良かったかもしれない。



ちなみに、自分の体の一部を、任意で水にでき、戻せることにも気づいたが…………ちょっと怖かったので、やめた。













妾は、何度も危機を回避したが……………ある日、とうとう事件が起こってしまう。




「兄様ー?起きてー!」




いつものように、兄様を起こそうとしていた。

しかし、兄様は部屋から出てこない。

物音は聞こえるのだが…………


…………昨日からずっと雨が降っていたから、あの魔法のせいで、予知夢を見たのかも。

また、兄が死ぬ前の日のように、最悪な夢でも見たのだろうか?




「……………もう知らないわ、先に、蘭と朝ごはんの支度してくる。」




この時、妾は何も知らなかった。

どうして兄様が出てこないのか、それを考えようともしなかったのだから、当然。



次の日も、その次の日も、兄様は部屋から出てこなかった。

少し違和感を覚えたが、兄様の従者に、そっとしておいて欲しいと、そう言われたから、その違和感を無視し続けた。











そして、ある日。

朝布団から起きると…………なんと、兄様の従者が、目の前にいた。

彼は、涙をぼろぼろとこぼしている。


兄様の従者の美しい顔には、痛々しい生傷が、たくさんあった。




「お、おれの………せいです。申し訳…………ありません…………!!」




彼は、妾の前で土下座をした。

……………何故?


彼は震えた手で、一枚の紙を差し出す。




それを受け取って読んだ瞬間、妾の中で何かが壊れた。




雷丸らいまる


 あって数年だけど、こんな我に、仕えてくれて本当にありがとう

 今お前がこれを読んでいるということは、我はもう暗殺されて死んだのか

 ちゃんと、我の妹に伝言を頼むぜ


 我は、予知夢を見た

 妹が我を飯に呼びに来て、我がドアを開けた瞬間、誰かに殺される夢

 そしてその結果、我が妹を殺したことになっちまうんだ

 時間帯はわからなかったから、とにかく部屋に引きこもるしかなかったんだよ

 

 我は、運命など変わらないって、そう思ってたぜ

 でも兄ちゃんたちが死ぬ前の夢は、彩人兄だけ、生き残るって夢だった

 我はな、あの日、妹に強え雨を振らせてもらうように頼んだ

 そうすれば、争いとか中止にならねえかな、みたいな馬鹿なこと考えてさ


 結果兄ちゃんたち、全員死んだ

 彩人兄が勝った後、雨で落馬したから

 運命は、確かに変わる

 あの時は悪い方向に変わっちまったけど、今度はいい方向に変えてやる



 雷丸、頼む

 あいつを自由にしてやってくれ

 あいつは俺より頭が良いから、全部背負いこんでる

 我は、あいつだけでも、自由になってほしい


 雷丸は、何かあったらこの手紙読めよとか、そういうやばそうなお願いも、聞いてくれるって思ってる

 我、親ガチャも才能ガチャも外したけど、従者と妹だけは、世界で一番恵まれた

 二人には、自由に生きて欲しい


 こんな、腐った蚯蚓を潰して生卵をかけたような家なんて、固定概念と一緒に全て壊しちまえ


 最後に、二人とも、本当にありがとう〕




なんて兄だろう。

妾が殺される運命を、自分が殺される運命に変えるだなんて。


あぁ、だから妾を、自分の部屋から遠ざけるよう、自分の従者の雷丸に頼んだの?

妾が殺されて、兄様は罪をきせられる運命を、変えたつもりなのかしら。




馬鹿なの?!


こんなことしたって、妾が自由になれるはずなんてない。

妾をこのままにしておけば、将来妾が殿方と結ばれ、子を授かる可能性がある。

そんな危険分子を、放っておくわけがないのよ!


雷丸は、主人を見殺しにしたとか言われて、罪に問われるわ。

彼は、作り笑いしかできなくなった貴方の、唯一の救いになってくれた、素晴らしい従者でしょ?

それくらい、少し考えたらわかるじゃない。




馬鹿、馬鹿、馬鹿。


今更格好つけないで………………誰よりも、死ぬのが怖がってたくせに。

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