百四十六歩目 「不安と違和感に襲われて(I)」
翡翠は、口を開けて、舌を見せる。
………そこには、警告を表すマークが。
マークの部分だけ、舌が黄色い。
黒く縁取られた、黄色い三角の中に、黒色で感嘆符が描かれていた。
翡翠は口を閉じると、今度は後ろの長い髪を持って、うなじを見せる。
そこには、何らかを抑制、禁止することを表すマークがあった。
「最初から……………兄と言うにしては、吾輩と似ていないと思っていました。だから、己の体に、心の一族の紋様があるかどうか………………一応、服を着替えた際に、確認を済ませてきたのです。」
「………………」
「結果、どこにも見当たらなかった。探した結果分かったのは、目と舌とうなじに、和の一族の紋様と、アルバート家の紋様があるということ…………吾輩の両親が、禁断の恋でもしたのでしょう。でも、それだと心の一族の血を引いている説明がつかない。まぁ、可能性はあります。これも法律違反になりますが……………まず、和の一族とアルバート家の血を引いた、死罪に該当する者がいて、その者と心の一族の人間が恋に落ち、吾輩たちがその間に生まれた子供で、両親それぞれに似ている可能性だ。でも……………そんなの、絶対兄弟ではない、と言い切れないだけの話。」
「そ、そこ………まで………………」
「その上でアリア様に伺います………………吾輩とエティノアンヌ様は、本当に兄弟なんですか?」
「……………え?」
「一族や貴族の家系のことは、知識として、たまたま記憶にあっただけなので…………自分の親の顔などはわからない。だから、エティノアンヌ様と吾輩が、絶対に兄弟ではないと、そうは言い切れません。」
「リアの口からは、とても……」
「エティノアンヌ様が、戻るまでに答えてください。」
「それは、ノアしか分かりません。リアは知らない。」
「なら最初から、そういえば良かった話でしょう。」
ガタッ
翡翠は、アリアの胸ぐらを掴んだ。
アリアは咄嗟のことで、何が起こったか理解できていない。
「なんで何も情報を吐かないんですか……………分かってることを、全部話してください。手荒な真似はしたくありません。」
「やめてください、翡翠さん………こんな方法、流石に酷いです。」
「酷いのは貴殿らの方でしょう……?!この状況で、吾輩に情報を渡さないなんて。記憶のないこちらからすれば、とても不信に見えます。例えば、エティノアンヌ様が、吾輩を弟だと思い込んでいる可能性もあるでしょう。エティノアンヌ様のお芝居が上手すぎただけで、何か得体のしれないもので記憶を飛ばされたりした可能性もある。冷凍されて誘拐された可能性だって、捨てきれないのに!」
「ノアの思いは、嘘なんかじゃない!!」
「思いが本当でも、向けている方向が正しいかなんて、吾輩には分からない!」
「なんで、ノアの心を理解しようとしてくれないんですか?!ノアは、翡翠さんのために……」
「だったら、こちらの恐怖心も理解してくださいよ!!吾輩は、狂った人間に唆されているのかもしれない………かつて自分が敵対していた人間に、手懐けられているのかのしれない。常にそう感じている!!!何もわからない状態で、ずっと違和感がどこかあって、でも愛は本物な気がして………………何が正しいのかなど、こんな時に分かると思いますか?」
「でも………!」
「行動に表さないとわかりませんか?」
「リ、リアだって………普通の人間よりは、力があります!」
翡翠は、更に距離を詰めた。
「………………吾輩を舐めてもらっては困る。自分の覚えている秘術の使い方が朧気でも、刀くらいは扱えますよ。」
アリアが首をすくめたその時である。
少女が、翡翠の足を蔦で縛った。
エティノアンヌの魔法を、コピーして使ったのだろう。
「アリアさんを…………いじめないで!!」