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百四十三歩目 「違和感は無視しなきゃ(II)」

翡翠が氷かけていた服を着替えた後、食事が始まった。




「アリアさんのご飯、昨日も美味しかったけど、今日も美味しい!」


「ありがとう。そう言ってもらえると、私も嬉しいですよ。」




少女が、使い慣れないスプーンで夕食を食べている。

それを見ると、アリアまで幸せになった。




「あの…………アリア、様?少し宜しいでしょうか。」


「翡翠さん、どうかしました?」


「何故、先程娘さんを、お嬢ちゃんとお呼びに…………」


「む、娘?あぁ、この子は一時的に保護してるだけですよ。王国内なら子供の保護も、貴族や一族なら犯罪になりませんから。」


「あの…………ここ全員、どういう関係ですか?吾輩が………エティノアンヌ様の弟で、エティノアンヌ様は吾輩の兄、このお嬢さんは保護状態、アリア様は……………」




翡翠は、純粋な疑問をぶつける。

それを見ると…………アリアは少し頬を赤く染め、翡翠を見つめた。

良いイタズラを思いついたのである。




「……………聞いちゃいます?」


「えっ………はい。」


「実は私…………翡翠さんと夫婦関係にありまして………………」


「えっ………?って、それはないです!一瞬焦りましたよ、勘弁してください………」


「すみません、冗談です。というか、何故違うと…………」


「さっきアリア様は、エティノアンヌ様を、ノアと愛称で呼んでいました。ですが、吾輩のことは ”翡翠さん” さんをつけていたので。」


「で、でもリアが………翡翠さんのことを、記憶喪失であることを気遣って、そう呼んだ可能性だってありませんか?」


「それにしては、呼び方に戸惑いが無さ過ぎる。夫婦だったのなら、さんをつける時に間ができたり、呼ぶ時少し悲しげな感じが出たりするでしょう?」


「そんなに呼び方、変でした………?」


「いいえ。アリア様からは、余所余所しい感じはしませんでしたよ。吾輩とある程度の親交があったか、あるいは…………信頼できる人の弟だったか。吾輩は後者だと思いました。アリア様は、エティノアンヌ様と夫婦関係にあるのではないでしょうか?吾輩と面識が少しあったとしても、ただでさえ記憶が消えたのだから、余所余所しさが簡単に消えるはずがない。エティノアンヌ様が吾輩を信頼しているのなら、自分も信頼すべきだと、そう思っているように見えました。」


「あはは………驚かせるつもりが、失敗しちゃいましたね。」


「何を仰るんですアリア様、大成功ではありませんか。」


「………………ど、どういう、ことでしょう?」


「目的は、吾輩を驚かせることではなく、エティノアンヌ様に嫉妬してもらう為では?」


「なんで…………………」


「あってますよね。」


「いや、あ………あってますけど……そんなに嫉妬とか、してないような…………」


「アリア様がなんとかしてください。吾輩………せっかく生き返ったのに、今日が命日になりかねません。なんと恐ろしい兄でしょう。」




アリアは、エティノアンヌの方を見る。



翡翠は、何を言っているのだろう。

彼の表情は………………普段と何も変わっていない。

最近、妙にあっさりしたような気がしたから、軽く嫉妬してほしかったのに。


第一、恐ろしいのは、翡翠の方だ。

頭が良い点ではノアと同じでも、洞察力や推理力が並外れている。

本当に、この兄弟は……………………




ピキピキ………ガシャンッ!!




何かが割れる音がした。

アリアと少女は、テーブルから食器が落ちたのかと思い、辺りを見渡すが、何も落ちていない。


しかし、一部のテーブルのスペースに、ガラスのコップが粉々になっている。

………その粉々になったコップの目の前には、エティノアンヌが座っていた。




「えっと……………ノア?」


「あっごめんね、コップ握り潰しちゃった。」


「………………」


「何も飲み物入ってなかったし、シチューに入らなくて良かったけど、危ないから、今度から気をつけるね。とりあえず片付けなきゃ。」


「は、はい。」


「……………ねぇ。」


「……………………なんでしょう?」


「ノアも気をつけるから、リアも気をつけて欲しい………かな。」




エティノアンヌ終始穏やかな顔で、粉々になったコップを片付けると、早々とシチューを食べ終え、椅子から立ち上がる。




「ちょっとシャワー浴びてくる………………頭、冷やさないと。」




彼の表情が、一瞬崩れたのを、三人とも見逃さなかった。

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