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十六歩目 「新しい日々?(IV)」

【すまない、また助けられてしまった】


「別に良いッスよ。」


【喋ったらまた誰かが壊れる

 僕はもう誰かを壊したくはない】


「………喋れなくなった原因があるんですか?」


【ある】


「言わなくてもいいッスけど……その原因、教えてもらえたりしませんか。」




エピンは、驚いて思わずメイの顔を見てしまう。

彼は慌てて目を逸らすと、メモ帳を盾のようにしながら思いを伝えた。




【言葉には感情が宿る

 感情は、いつだって僕の周りから色をなくしていく

 それが嫌で、しばらく人と喋らなかった

 そしたら動物や魔物としか話せなくなってしまったんだ】


「エピンさん……」


【話せないどころか、人が怖くて仕方ない

 メイやトルテには慣れたが、僕は今でも客と話すのさえ苦痛だ

 自分を嘘で塗り固めて何かに必死になっている

 死ぬほどでもないが、生きる理由なんてない】


「生きる理由がない?……なら、どうやって生きるんですか?!」


【自分には何かがあるはずだ

 そうやって自分に期待して生きている

 何もないことは承知の上で


 天才には、何かしら闇を抱えた者が多いそうだ

 きっと僕もそちら側にいる

 けれど闇を抱えている者が天才とは限らないだろう?

 それなら僕は何のために生きているのか

 いいやきっと僕には何かがあるはず

 その繰り返しだ】


「……なんでそんなに悲しいこと言うんですか。馬鹿だって馬鹿なりに幸せに生きられますよ。俺だって生きてる。」


【僕が成したいことは天才では無い限り不可能に近い】


「……まぁ、なんかあったら遠慮せずにオレを呼んでくださいよ?エピンさんにどんな辛いことがあったかは知らないッスけど、苦手なことは頼って欲しい。エピンさんは一人じゃないんですから。」


【ありがとう

 そろそろ靴を作ってくる】


「じゃあ、オレは仕事に戻るッス。」




メイは、走ってパン屋に戻る。

彼がエピンの作り笑いに気づくことはなかった。


エピンの仮面の下は、濡れている。

メイはきっと知らないだろう。

彼の視界が滲んでいて自分の姿をよく見ることができなかったことも、無理して平然を装ったことも。




「…………一人じゃなくても、僕は孤独だと思うが。」




彼の心の中に、人は住んでいない。








必死に思いを込めた靴が、やっと完成した。

エピンは男の前で箱を開ける。

念の為メイが付き添っているので、今度は安心だ。




「これで空を飛べる!!」


【思いが足りなかったから不完全だ

 使用するのは一日に四十分以内

 いや、念の為三十分以内にしよう】


「あ、これ思いが足りなくて不完全らしいッス。だから使う時は……」


「もういい!ゴタゴタ言うなっての。じゃあ俺もう行くから。」


「待ってください!危険な目にあってからでは遅……」




男は、既に空を飛び始めていた。

メイは空に向かって叫ぶ。




「それ三十分以上使っちゃダメーーー!!!」




しかし、男の耳にその声は届かない。




「エピンさん!どうにかなりませんか?!………例えば、人形とか蔦の魔法で!」


【いやマリオネットって人間にできる範囲の動きしかできないから無理だ無理】


「蔦の魔法は?」


【あれ、使うと感情の制御ができなくなるんだ

 今までは感情が昂った時に使ってしまっていただけで】


「えぇ?!じゃあどうすれば…………タイムリミットは三十分ですよ!」




エピンたちはなんとかしてあの男を助けることに決めた。

二人はトルテと合流し、街の人たちに協力を求める。

しかし、みんなは意外と男に辛辣だった。




「メイを締め上げたやつでしょ?そんなクズ放っておけばいいわ、死にはしないんでしょ。」


「スマイラーさんの店に言いがかりをつけていたらしいな、その男は一回痛い目みるべきだろ。」


「そいつ……まさかうちの宿屋に無料で止めろみたいなこと言ってきた若者?」


「顔を隠している靴屋さんに無理やり顔を見せるように強要したんだってさ。」




男が今までやってきた行いを、街の人々がそう簡単に許すことなんてない。

あの靴は思いが曖昧……いい加減なせいで、四十分立つと墜落の危険がある。

墜落といってもゆっくり落ちていくため、誰も死なないとは思うが、その靴が壊れた衝撃で足を骨折する可能性は高い。




「でもあいつ、見捨ててもいいんじゃないですかね?」


【いくらなんでも人を見捨てるわけにはいかない】


「あの男を見捨てたら、美味しいお菓子が食べられますわよ。エリーゼちゃんたちの牧草クッキーも用意しましたの。」


「なら、オレは明日メロンパンサービスするッス。」


【じゃあ喜んで!!】


「素晴らしい即答!さすがエピンさん。」


「ローズさんらしいですわね。」






数日後。

あの男は念願のテレビに映ることができた。

しかし彼は、今靴屋の前に立っている。

クレームを言いに来たのだ。


……………………病院から抜け出し、慣れない車椅子で押しかけてまで。




「おいテメェ!テメェの靴のせいで借金してまで病院代を払う羽目になったじゃないか!!」




その時、エピンの店にはメイもいた。

居住スペースで、二人優雅にティータイムの真っ最中だったのである。

男の声を聞きつけたメイは、店スペースに移動し窓を開け、そこから彼に話しかけた。




「規約書を読んでない場合、いかなる苦情や返金などの相応の対応も受け付けません。サインした紙にそう書いてあったでしょ?」


「ふざけんな!俺はそんなこと知らねぇ!」


「というか、アンタを茶会に招いた覚えはありませんけど。」


「…………!!!」


「もう二度とエピンさんにもトルテさんにも関わるな!不愉快なんだよ!!」




彼は窓を閉める。

男はまた叫ぼうとしたが、周りの冷たさと苦笑いが混ざった視線に、とうとう耐えられなくなった。



相手のためにも自分のためにも、人の話はちゃんと聞くべき。

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