百三十八歩目 「やめられないし止まらない?(II)」
「リアの魔法のストックがあるけど…………流石にこれはダメだ。」
アリアの生誕魔法は、愛を動力とし、対象の体力を回復させ、魔法や身体能力を高める魔法。
愛していれば愛しているほど………彼女が恥じらえば恥じらうほど、その効果は跳ね上がるのだ。
勿論、普通に魔法をかけるより、手をつなぐ、キスをする、愛の言葉を囁き合ったりした方が、愛の力が強まり、その上彼女が恥じらうので、より良い効果が得られる。
それに比例して、体力的、そして精神的に、多大な疲労が伴うようだが…………
ある時彼は、彼女の魔法が、一応、その辺の植物や、物にもかけられることを知る。
かけられることは、かけられる、だが魔法の良い効果が、エティノアンヌ以外に発生することはなかった。
……………しかし、その魔法がかかった植物を、エティノアンヌが吸収すると、なんと、瞬時に効果が得られたのである。
その上、使うまで効果は全く薄れない。
彼はそれから、彼女の魔法がかかった植物を、小瓶に入れて持ち運んでいるのだ。
体力が回復するので、小瓶を使うか悩む。
しかし、二人はまだまだ食べ続けるだろう。
「二人とも、もう終わりにしよう………正直、もう限界だから。」
二人は、悲しそうな顔でエティノアンヌを見つめる。
だが…………彼は、既に ”限界” だった。
身体的ではなく、我慢の限界だったのだ。
エティノアンヌは、手早く二人をぐるぐる巻きにする。
先程まで色々あったし、なんだかんだ甘やかしていたが、もうこれ以上は、流石に甘い彼でも安価できない。
奥からするこの死臭で、人形が死体に戻ったのだと言うことは、エティノアンヌも理解していた。
元から、誰かが生き返ることなんて、期待していなかったため、この少女がここで生きていたということだけでも、彼は十分だった。
しかし、まさかここまでよく食べる少女だとは。
二人は確かに頑張ったのだろうが、もうこちらも同じくらい頑張ったので、もう帰っても良いだろう。
体力が尽きないうちに、さっさと帰らないと、アリアにも心配されてしまう。
エピンの家には、一回行ったので、道順はもう完璧に覚えていた。
「果物はまた今度、これ以上は流石にお腹壊すよ!」
エティノアンヌは、エピンを家に戻した後、少女と共に屋敷に戻った。
少女もエピンの家に置こうとしてきたのだが……………植物から解放しても、体にしがみついて、離してくれなかったのである。
あの果物が、そんなにおいしかったのだろうか。
ガチャ
「お帰りなさい、ノア!!無事で良かっ……………あれ?」
「ありがとう、ただいま。」
「その可愛らしい女の子は?」
彼は、アリアに起きたことを簡潔に話す。
「……………情報量多いですね。まぁ、とりあえず色々終わったみたいで何よりです。」
「うん。」
「問題があるとすれば……………この女の子が喋らないことくらい、ですか。」
そう、この少女は、エティノアンヌが見ていた限り、一度も言葉を発していないのだ。
言われていることは理解しているようだが、全く喋る気配がない。
エピンは、水を求められたと言っていたが………
一方、エピンは、メイとトルテと一緒に、晩御飯を食べていた。
どんなに果物を食べていても、晩御飯が食べられなくなることはない。
彼は、我を忘れて、エティノアンヌに我儘をぶつけたことを、少し反省している。
味はあまり感じなかったが、瑞々しさと、微かな甘味がとても美味しく感じ、あの果物を食べられるのがやめられなかったのだ。
「いやー、ほんと安心したッス。待ってる間ずっと手震えてましたもん。」
「それなですわ!接客している間も、目の前のことが上の空で…………」