百三十六歩目 「向き合いましょう?(IV)」
腹にナイフが突き刺さった彼女は、腹を抑え、その場に倒れ込む。
咄嗟にナイフを投げられたため、バンボラは反応出来なかったのだろう。
彼女は、自分のやってきたことを後悔しながら、朦朧とする意識の中で、涙を零した。
死に際になって、生誕魔法の効果が薄れてきているため、人形にしたいという欲求から、解放されつつある。
たくさんの後悔と、何でこんな生誕魔法に生まれ、苦しい衝動を背負わなければいけなかったのかと言う疑問が、頭の中を埋め尽くしていた。
エピンは生誕魔法を使う度に、皆から喜ばれていたが、バンボラは違う。
同じ衝動もあり、何かを別のものに変えているだけなのに、人々はエピンを慕い、バンボラを恐れたのだ。
「魔法が解けたら、この人形たちは、人に戻るのだろうか。死んだら、生誕魔法は解けるとはいえ…………」
エピンは、いつもの真顔に戻る。
エティノアンヌは、一応落ち着いてヴィオローネについていって、同じ階のベランダに避難したようだが、どうやらその後、疲れのあまり寝てしまったようだ。
もしかしたら、人形にされたエティノアンヌの従者も、復活するかもしれない。
起こすか起こさないかは置いておいて、ひとまずヴィオローネを読んだ方が良さそうだ。
「ヴィオローネ!」
「キュイッ!」
ヴィオローネが肩に乗ってくる。
彼女は、自分が肩に乗った時に、少しよろめいた彼をじっと睨んだ。
「ど、どうした?」
「………キュキュッ、キュイ!」
「ち、違う!ヴィオローネが重いとかじゃなくて、今は片足が……」
………彼の遺体と、エイトの遺体は、どこに行ったのだろう。
エピンは、ふと疑問に思った。
あの場にいたエティノアンヌに、ちゃんと聞いておくべきかもしれない。
しかし、やはり弟のことを思い出して、許せなったとしても、エティノアンヌに対しては兄弟の愛情というものがある。
バンボラの前ではああ言ったものの、やはり彼のことは兄としてしたっているのだ
傷つけたくない人間相手に………声を発することなど、出来るわけがない。
エピンは、足を左右同じに戻そうとしたが、それは出来なかった。
イメージと、戻したいという思いが足りなかったのだろう。
もう疲れていて、脳があまり回っていないのである。
足をそのままに、彼はよろよろと片足とびをして、エティノアンヌの方へ移動していく。
……………正直な話、エピンの目には、兄が感情を抑えきれない子供に見えた。
あの頭の良さと、見た目の色気であまり分からないが、彼の中身の成長は………メロディ、ステファーヌ、バグノーシアがいなくなった時から、止まっている。
辛い出来事を忘れられず、過去に囚われ続けているのかもしれない。
皮肉にも、頭が良かったせいで、エティノアンヌは誰よりも現実をみることになってしまった。
彼がそのような人間だったからこそ、あの全て洗脳される魔法に依存し、たくさんの人間を殺してきたのである。
ドサドサッ!!
「ひっ?!なんだ、この音……」
「キュ、ルキュ……!」
「はぁ?!死体の山が、崩れる音だと?!ど、どういう………」
エピンは、突然の音に驚きながらも、音のした方へ行く。
………そこには、死体の山があった。
人形ではなく、本物の、人の死体があったのだ。
「うっ………死臭が酷い、もう骨だけになったものもあるし、謎の肉塊らしきものもある。」
「……………」
「一つ聞かせてくれ、ヴィオローネ。母上が死んだのに……………何故、皆は元に戻らない?」
「…………キュッキュ。」
「そ、そんな!」
「キュルキュル、キュイッキュキュ。」
「人間に戻った瞬間………………水と食事が必要になって、死んだと?」
「キュキュ。」
「そうか………人間に戻った際、同時に、人形になっていた期間が急激に経ったんだ。数年間何も食べなければ、当然死ぬ。」
「キュル………………ルキュ?……キュイキュ!!」
「ヴィオローネ?」
「キュキュキュイ!!」
「本当だ、あの人だけ生きてるじゃないか!!!」
今度は絶対に、目を逸らしたりなんかしない。