百三十三歩目 「向き合いましょう?(I)」
僕は、全部を知らなきゃいけない。
…………その上で、自分の決めた道を進む。
「(エピンは、何人兄弟?)」
「そ、それは………?!ふ、二人だ……いや、兄上の話だと、確かもう一人、僕には兄がいる。」
「(エピンは末っ子じゃない。)」
「え…………?」
「( #%&が 、いるもの。)」
「嘘………?!」
「(本当よ。)」
「ぐっ!き、気分が……………」
エピンは、膝から崩れ落ちた。
鉄の部分が、ガシャン……と、音を立てる。
色んなものがフラッシュバックして、吐き気がした。
酒を飲みすぎたかのような目眩と、鳩尾をかき回されるような感覚が、この気持ち悪さを、更に増している。
エピンは、右手で口を抑え、左手を首に押し付け、必死にこの苦しさを誤魔化した。
ギシ……ギシ…………
『…………………』
『………父上、お時間よろしいですか。』
『………………………あぁ、お前か。すまない、気づかなかった。少し待て。』
彼が、寝室から出て行ったことに気づき、追いかけた。
彼が部屋に入ったのを確認して、聞き耳を立てた。
………父上に用があったのか。
『どうした、眠れなくなったのか?』
『いえ、そういうことでは………ただ、少し質問がありまして。』
『聞こう。』
『あの戸棚………も、申し訳ありません!間が悪かったですね、少々時間を潰して参ります……』
『待て!…………………それは、どういう意味だ。』
『言葉通りの意味ですよ、この話は長くなるでしょうし。』
『長話に、何か問題でも?』
『問題あります。長話の間、戸棚に隠れさせるなんて……お相手の方が、あんまりかと。』
『……一応聞くが……お前、いくつだ?』
『四つです、何故……そんな、わかりきっていることを聞くのですか?』
『いや、知っているが……念の為。』
『ひとまず、吾輩は時間を潰して参ります。』
『……………僕は、お前が末恐ろしい。』
『いくら愛していないお相手でも、相応の振る舞いをしなければなりません。当たり前のことでしょう。』
『お前は…………この状況を、その……なんというか、僕が何をしていたか、理解しているように見えるんだが。』
『はい、把握しております。実際にこの場で全て話して、証明しても。』
『なんて子供だ…………誰に似たのやら。』
『吾輩は、吾輩でございます。』
そうだ、彼は昔から、異常に察しが良かった。
ただ、単なる優等生タイプではなく、大人と同じ世界を見ている感じの優等生。
金や権力についての知識、家柄などの問題…………だけではなく、人との関わり合いでの立ち回りまで、彼は全てこなす。
王城内の争いでも、彼はただでさえ不利な身分と立場を覆し、事を収めてしまったのだ。
彼は、大人よりも賢く………その上心まで読める。
脅威に感じた人間たちが、彼を殺そうとしたことも、何度だってあった。
しかし、彼は雨や水を自在に操る魔法で、氷の剣や水の刃で、大人を簡単に負かしてしまったんだっけ。
あ、そうだ。
だから、毒を持られたんだ、僕らは。
彼は…………確か、味だけでなく、香りも分かったというのに、なぜ引っかかってしまったんだろう。
毒見役の彼を、欺くため、数分後に効能を発揮する、あのようなものを………
『うっ!!』
『どうした?!』
『毒だと………そんな、馬鹿な…っ?!じゃあ、あの不審感は………!!』
『待って、今すぐ解毒が可能な植物を、ノアが……!』
『塵風情が………!吾輩に、恩を売りたいのなら、若様を…………救え…………』
『大丈夫だ!エピンは、ほとんど毒を飲んでない。時雨がどこか、食事を不振がる様子を見て、あまり食べようと思わなかったみたいだよ。』
母からは、避けられないような宴の席以外、式典には出るなと言われていた。
食事も、最低限のものだけ。
おかげで、その時は少し気分が悪い程度で済んだ………気がする。
でも、大事な人が、とても苦しそうにしていたような………
兄上に、植物の毒なんて効かない。
皆が苦しみ始めた中、一人だけ無事だった兄上は、これが、植物による毒だと感付き、すぐに解毒できる薬草を栽培し始め、皆に現状を報告した。
知識、冷静さ、迅速な対応力、的確な判断、兄上の頭の良さを、僕が改めて思い知らされた時である。




