百三十歩目 「もう互いに必要ないのでは?(II)」
バンボラは、核心をつかれたような顔をした。
一方エティノアンヌは、エピンの魔法のことに勘付いていたのか、全然驚く様子がない。
「どういうことかしら。」
【僕は、身につけるものの、材料に触れて念を込めるだけで、物理的な願いが叶うものを作ることができます
服、帽子、アクセサリー、靴、身につけるものならなんでも作れる】
「………そんな魔法を、持っていたの。」
【母上なら、何か知っているんじゃないかって。】
「………………うーん、少しくらいの助言はできると思うわ。」
【本当ですか】
「ただ、エピン……………貴方は照れ屋さんだから、少し恥ずかしいかも。」
【からかわないでください
何か知っていることがあるのなら、全て教えてもらいます】
「後悔しないわね?」
【後悔なんてしません】
その文章を見ると、バンボラは深呼吸した。
そして、意を決して………口を開く。
「十中八九、服を作れる魔法の方が生誕魔法よ。」
【なるほど】
「………えぇ。」
【じゃあ、動物の声を聞ける能力は?
あと、なんでそう言い切れるのですか?】
「…………………わね。」
【すみません、もう一度】
「………素敵なレディを捕まえたわね。」
にっこりと笑う母の顔を見て、エピンは固まる。
「えっ………母………上………?」
「私も、動物と会話できるの。勿論だけど、生誕魔法は別にある。」
【待ってください、頭が追いつきません】
「肩に乗っているのは、交際相手でしょう。」
「………………?!?!」
「素敵な方ね。」
「待って!……その、違っ………えっと…………」
「でも、さっき………そのミミズクちゃんに、小声だけど、大好きって言われ…………」
【ストップ!!】
「だから、少し恥ずかしいかもって言ったのに。」
【少しどころじゃない|】
彼は、今までで一番恥ずかしさを味わったが、どこかでホッとしていた。
ヴィオローネのことを、否定されるかと思っていたのに、あっさりと受け入れられたからである。
ついていく、と……そう言って聞かなかった彼女を、つれていくか、エピンはかなり真剣に悩んだのだ。
母に罵倒され、最悪殺されかけるかもしれない。
………そんな不安もあったが、それらは跡形もなく消え去る。
特に、言葉の裏にあるものなどは感じられないし、大丈夫だろう
普通の親子のような、他愛のない雑談。
これを何度、夢見たことか………
エピンはバンボラに心を開き始めた。
しかし、エティノアンヌはそうもいかない。
「あはは…………馬鹿みたい。こっちは、楽しく話せる母親とか………もう、とっくに死んでるんだけど。」
「ねぇ、エティノアンヌ。」
「ノ………私の、名前を………口にしないで………しないでもらえませんか。」
「あたしは…………………貴方をずっと、子供のままに、してしまった?」
その言葉を聞き、バンボラの顔を見たエティノアンヌは、怒りが頂点に達する。
悲しそうな問いかけかと思えば、この女は口角を上げたままだ。
彼は、バンボラに詰め寄る。
「ノアが子供だと?!何も守れない子供だと?!黙れ!!今すぐ訂正しろ!!!」
「どうして、貴方はそんな顔をするの。」
「ノアはもう何も失わない!!!子供じゃない!!!!」
「ねぇねぇ、確かに貴方の従者は人形にしたけど…………あの綺麗な人には何もしてないわよ、あたし。」
「子供じゃない!!こんなに、ノアはこんなに強くなった!!!子供なんかじゃない!!!」
「あの綺麗な人が焼かれて死ぬって聞いて、せめて人形にできないか、ベルに聞いたことはあるけど、ダメだったもの。」
「訂正しろ!!ノアは子供じゃない、子供じゃない!!!!」
「話が、成り立ってないような気がするわ。」
「子供扱いするな………ノアは、貴様より強いし、賢いんだ。」
「名前を呼んだのはごめんなさい。…………でも、あたしは、貴方を子供のままにしてしまったか、そう聞いただけじゃない。貴方を子供だと言った覚えはなくてよ。」