百二十七歩目 「随分と身勝手ですね?(III)」
「わざわざ、大分前に、貴方に褒めてもらった踊り子の服を、リメイクしてきたんです。流石に、もう大人ですし、似合いませんかね?」
「………………どうかしら。」
「さぁ、手袋を外して。」
エティノアンヌは、今すぐ殺してしまいたいのを、必死に抑えていた。
本当なら、避けたような口で不気味に笑っている、この女を今すぐにでも、殺してしまいたい。
だが……………自分の本当の性格なんて、姿なんて、絶対に見せるものか!!
この人間にありのままの自分を見られるなど、吐き気がする。
ノアを、美しいと思い込め。
そこから、絶望に叩き落としてやるよ………
「さぁバンボラ様…………どうぞ、私のお手を。」
「嫌……駄目、駄目なの…………なのに…………!!!」
「私は美しいでしょう?」
「あぁ……………離れて。」
「そうです。貴方は手袋を外して、その手で私に触れればいい。」
所詮、お前はその程度の化け物だ。
ノアは死なない、化け物同士………勝負と行こう。
「頑張ってますね、貴方のそんな………人形とかけ離れた、人間味溢れる醜い顔、好きですよ?ずっと口角をあげていても、やはり偽りというものは、崩れるもの。」
「…………い……や!!」
トスッ
バンボラの五本の指が、エティノアンヌに触れた。
「……………あれ。」
「どうかしたのです、バンボラ様。」
「どうして、人形にならないの?!なんで!?」
「知りたいですか、私が人形にならない訳を。」
「なんで?!なんでなのよ!!」
彼女は、酷く取り乱す。
どうして彼は、人形にならない?!
そんなことがあっていいはずないんだ!そんなことがあっていいはず……ないのに!!
「それは…………私が ”化け物” だからですよ!!!!」
「どういうこと?!理屈になってないわ!!」
「やはりお客様の魔法も、妻の仮説も正しかった。」
「……………………おかしいわ、おかしい。こんなの嘘、嘘よ…………嘘に決まってる!!!!」
情緒が安定しないバンボラの目の前で、エティノアンヌは思いっきり叫ぶ。
「私は人間と植物の中間地点………ではなく、人間と植物の器官を持つ、未知の生命体だ!!」
バンボラは、全てを理解した。
「貴方の能力は、人間と動物にしか通用しない!私のような存在を、人形にすることはできない!!」
「………………!」
「人形にしなくて良かったと言わんばかりの、そのほっとしたその顔……………あの悪趣味、ちょっとは改善されましたか。少しは、貴方も改心したようですね。でも私は……………貴方のことを、絶対に許しません。」
「……………何をする気?」
「貴方は人形が大好きですが、人間が嫌いでしょう。人間は人形から遠い上、人間からは罵倒されたでしょうし。」
「それが、何だと言うのかしら。」
「でも、貴方にはもっと恐れるべき存在がある。」
「…………………まさか!!」
「そう、私です。私の能力は、少し貴方と似ている箇所がある。人を植物にできるのですから。まぁしっかり記憶している人間なら、元に戻そうと思えば戻せますし、貴方のように素手で触れる必要はありませんけど。」
「……………それって、どうやって、人を変えてるの?」
「バンボラ様は聡明ですね、私がこれから何をしようとしているのか、もうわかっていらっしゃる。」
「やだ………やだ………………」
エティノアンヌは、少し屈んで、バンボラと目線の高さを合わせた。
「どうですか、 ”人形になれる望みが全くない生物” として、死ぬのは…………」
「あぁ………あぁぁぁ……………」
「殺し屋時代の頃にやったんですが、この魔法…………人間と植物の中間で止めると、適応できなくて死ぬんです。例え生き残れても、〔マガイモノ〕として、生きていくことになる。」
「やめて!お願い……許して…………それだけは!!」
「貴方の美しさの基準は、人形なのではないですか。そこから遠ざかれば遠ざかるほど、貴方の基準では、醜くなる一方で、美しくなくなってしまうのではないですか。」
「ひっ?!」
「これが、私からの復讐。せいぜい無様に死ね。」
「駄目、やめて……やめてってば…………」
「メロディにだって、同じ音葉を言われたでしょう。けど、貴方はメロディを………殺した。今更………貴方が何をいっても、私の意思は揺るがない!!」