百二十五歩目 「随分と身勝手ですね?(I)」
とにかく、色々なものを作りたくなって、たくさん作っていた。
たくさんの服を作るうちに、靴や帽子、アクセサリーなど、体に身につける物なら、材料と思いさえあれば、なんでも作れるようになった。
しかし、皆に何度も聞かれたことがある。
何故、数十分ほどの短い時間で、服や装飾を作れるのかということだ。
何かを作る際、僕は誰も部屋にいれようとしなかったため、少し不思議に思われていたのだろう。
信頼できる者にも、何かの魔法かもしれない、と言った曖昧な返し方しかしていない。
何度もやるうちに、これがただの奇跡とは思えなくなっていった。
奇跡だったとしても、こう何度も起こるなら、それは奇跡と言えるのか?
…………それも、母上に聞けば、わかること。
「大丈夫だ、大丈夫……」
「キュキュ……?」
「安心しろ、心配はいらない。ただ、ちょっと………」
「キュル。」
「………怖いんだ、母上が何を考えているのか分からないから。」
「…………」
「王城は、今となっては母上以外の人間など、誰もいないはず………母上と、同じ空間に二人で………あぁ……………」
「キュイ!!!」
「はっ?」
「ルッキュキュ!!」
「………そうだな、母上と二人きりなんかじゃない。ヴィオローネがいる。」
「キュルルル……」
「そろそろ飛ばすか?」
「キュイ。」
「早く、メイやトルテの元に戻りたいんだ。」
「キュイキュ、キュル。」
「体力が万全だろうと、そうじゃなかろうと、母上に本気を出されたら、勝てない。」
「キュ……」
「さぁヴィオローネ、屋根を飛び移って行くぞ。僕は人形を使う。」
一方、王城では、一人の女が泣いていた。
彼女は小刻みに震えながら、何かをぶつぶつと呟いている。
「皆………どうかあたしをこの衝動から、解放して……………」
「……………………」
「ここから………出られないの。」
そう呟く女を、人形がぎゅっと抱きしめた。
「あぁ、アリス………愛おしいアリス。」
「………………」
「時が経てば経つほど、美しいあなたから、遠ざかってゆくわ………」
「………………」
「アリス………アリス……………」
彼女が人形と触れ合っていたその時、彼女はとんでもないことに気づく。
………一瞬だったが、三階であるこの部屋の窓から、城の扉が開くのが見えたような気がしたのだ。
ここに、誰かが来ているかもしれない。
女は慌てて涙を拭う。
そして、衝動が……………衝動が限界に近づいていることを、再認識した。
「なんで………ここに来るの?ここに来たら………ずっとここに……いることになるというのに。」
美しい生き物を、人形やぬいぐるみに変えたいと思っていた。
しかし、今となってはもう誰でも良くなっている。
とにかく誰かを、人形にしたい、ぬいぐるみにしたい!!
シャッ……シャッ………
奇妙なその音は、その人物の足音。
だが、靴の当たる音ではなさそうだ。
かといって、素足で歩いていても、この音はならないだろう。
女は、気味が悪くなる。
動物があの重いドアを、開けることなんて不可能なのに。
だが、迫って来ているのが、人間だとは、とても思えない。
………コンコン。
彼女の部屋のドアから、ノック音がした。
女は、恐怖で震える。
ここはとても静かな場所、そしてこれまで、ノック音はしていなかった。
間違いなく、これが一回目のノックだ。
でもおかしい、そんなのあってはならない!
だって……だって………
そ れ で は ド ア の 向 こ う の 人 物 が 、 こ の 部 屋 に 、 自 分 が い る こ と を 、 知 っ て い る 人 物 だ と い う こ と に な っ て し ま う 。
誰だ、誰だ?
ここはあたしの人形部屋、生きている人間は、誰一人ここを知らないはず!
ベルは死んだ、死にかけだった使用人も、王政が崩壊した時、皆人形にしたのに。
あと、この部屋を知っているのは…………エピン。
人形にしようとして、失敗したのは、エピンくらいだもの。
でも、あの子がなんで急に………あんなに探しても見つからなかったあの子が………………




