百二十四歩目 「忘れていられますか?(III)」
【信頼はしている】
「じゃあなんで、今度は ”母親に会いに” 行こうとするんですか?!会うのはいいとしても、一人で行くなんて、危険過ぎる!!生誕魔法も分からないのに!!」
メイは、先程言ったエピンの発言に疑問を呈した。
なんとエピンは今から、一人で母に会いに行くと言っているのである。
母親との過去を伝えられた今では、看過出来る内容ではない。
【一人ではない】
「じゃあ誰と……」
エピンの肩には、ヴィオローネが乗っている。
まさか……メイはかなり驚いたが、動揺を飲み込んだ。
「そ…………それなら、確かに一人じゃないッスね。」
【やはり、驚くか】
「………………」
【改めて言っておくが、信頼はしている
それとも…………今、僕が出かけると前もって言っている理由が、分からないと?】
「エピンさん、もしかして……」
【何かあったら、ヴィオローネを介して、エリーゼが二人に伝える手筈を整えた
トルテにも、このことは伝えてある】
「…………!」
【これが、僕の問題であることに変わりはないし、自分で解決したいし、二人を巻き込みたくもない
でももう、一人で突っ走るのはやめるって決めたから】
「連絡があったら、すぐ 助けに 行きます!」
食い気味の返事に、エピンは少し面食らったが、すぐに落ち着き、冷静さを取り戻す。
元気な返事の理由は………メイがいつも履いている靴だろうか。
この靴は綺麗だ、しかしとても古そうで、かなりの年代物だと思われる。
それに………何故か少しだけ、血がついているのだ。
そして、その血のついている部分には、不自然に血がついていない箇所がある。
まるでその箇所は、何かによって、血が付着するのを、免れたような………
…………まぁ、靴のことは今度でいい。
【頼りにしている】
「はい、何かあったら、オレが絶対助けに行くッス!」
エピンは、元いた王城へ、歩き始めた。
………そして、色々なことを思いだす。
今更だが、お人好しにも、限度というものがあるのではないだろうか。
ただの寡黙な隣人に、ここまでしてくれる人間がいるなんて。
あの靴は…………彼のメロンパンを食べたあの日、思わずヴィオローネに言ってしまったほど、好みのデザインだった。
今作っている靴にも、そのデザインを取り入れている。
あの靴が完成しない理由が、分かった気がした。
物に思いを込め、どうなるかをイメージして、材料に触れると、その思いが現実となる洋服や、アクセサリーが完成する。
込める思いやイメージが不完全だったり、材料が足りなかったりすると、爆発して大失敗。
………この不思議な力は、なんだろう。
ずっと、疑問だったが………母上なら何か、知っているはずだ。
憶測でしかないのに、なぜか、確信があるような感じもしている。
もしかしたら、これは生誕魔法なのでは?
根拠はある。
幼い頃から、裁縫が大好きだった。
ドレスを着ることよりも、作る方が楽しくて、楽しくて仕方なくて。
身長が伸びても、布を用意し自分の力でサイズを変えていたくらいだ。
ある時、いつものように裁縫をしようと布に触れたら、布がひとりでに集まり、光を放ち始めた。
なんとなく、服が出来上がるような予感がして、必死にイメージして祈ったのを覚えている。
そして、自分の理想の服が出来上がった。
………しかし、既に動物と話せていた僕は、これはなんかすごい感じの奇跡だと思い込んでしまったのである。
ひょっとしたら、動物との会話能力は ”突然変異” の秘術か何かで、こちらが生誕魔法なのかもしれない。
僕はその後も、『奇跡を起こしたくてたまらない時』といえばいいのだろうか………そんな時が、月に数回ほどあり、その度に色んな服を作っていた。
僕が幼い頃着ていたのは、時雨との ”ご飯が美味しくなるドレス” 。
使用人たちには、 ”肩こりなどの痛みが和らぐ制服” を作った。
兄上にも、 “正しい時間に眠くなり、睡眠習慣を改善するネグリジェ” をプレゼントしたことがある。
込める思いが、はっきりしていれば、なんでも作ることができた
えっと…………あの東の伝統衣装は、誰に作ったんだっけ?
自分でも分からないことが、苦しくて仕方ないでしょ。