外伝 「本能に負けちゃえ(II)」
だが、アリスがいなくなったと騒ぎになって、あたしと一緒にいやという証言を聞かれたらまずいかもしれない。
先に飛び出していって、彼女がどこかに言ってしまったと泣くのが得策だ。
演技は、あたしの得意分野だもの。
全て上手くいった。
アリスがいなくなってしまったと泣いて、もう寝ろと止められても、皆と共に深夜まで探した。
皆があたしを憐れんだ、何も欠陥はない。
やっと自分になれる。
良い子のあたしじゃなくて、本当のあたしに、悪い子のあたしに。
あたしは、部屋に、鍵をかけた。
アリスをクローゼットから取り出し、すぐにキスをした。
自分も服を脱ぎ、彼女の服も全て脱がせて、体を触れ合わせていく。
肌の感触も、胸の感触も、心臓の音はしないのに、まるで生きているように暖かい。
あたしは思わず、腕を切った。
その痛みと高揚感だけでは満足できずに、彼女の脚にまたがる。
動けば動くほど、比べ物にならない背徳感と快楽が増えていく。
あぁ、あぁ、なんて、なんて………幸せなんでしょう。
あたし、あたし、ずっとずっとこうしたかったの。
でも、誰にも言えなかった。
一度だけ、ビオラと同じようになった雀を使用人が見た時、あんなことを言われたから。
『お嬢様、これは……?』
咄嗟に聞かれたから、何も誤魔化せなかった。
『ちょっと触っちゃっただけで、わざとじゃないの………わざとじゃ!!』
『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』
『……え?!』
『触らないで!!!』
誰にも、言えない。
あの使用人が何も言わずにやめてから、ずっとそう思ってきた。
でも、この衝動がどうしても収まらない。
誰にだって欲求の一つや二つあるでしょ?
美味しいものを食べたい、綺麗な洋服がほしい、楽器を引いていたい。
あたしは、生き物を人形にしたいだけなんだってば。
………それが、いけないことですって?
黙って!!!
あたしにとって、これはただの欲求だ!!
なんでそんなことを言うの?
あなただって、こう生まれてきたかもしれないのに。
あなたの好きなものは何?
歌劇や映画、お洒落にメイク、なんだって良いわ。
多少は非難されることも、あるかもしれない。
でも皆、大抵の好みは、受け入れてくれる。
そして、その好みは、あっという間にステータスになっていく。
あなたは、それを全否定されるかもしれないっていう、恐怖を、感じたことがあるの?
大抵のことは受け入れられる世の中で、あたしみたいな、生まれつき人間になり損なってる化け物たちは、置いて行かれてるわ。
何で、成功者ぶった顔してるのかしら。
あなたの才能と努力は認めるけど、それって、あなたの好きなものが ”世の中の正解” だったから、成功者になれたんじゃないの?
いつだって正しいのは、世の中の大半。
してはいけないことだってことくらい、言われなくてもわかってる。
でも、してはいけないことだけ否定してよ、あたしを否定しないでよ。
そして、しばらくして、あることに気付く。
自分には、生き物を精巧に、ぬいぐるみや人形にする能力があったということを。
あたしは、触れたものを任意で、ぬいぐるみや人形にしていたのだ。
本物の生誕魔法は、こちらの方だったのである。
こっちの能力が、本当の生誕魔法だと知った時、あたしの今まで感じてきた、この苦しい思いが、一気に解放された。
生誕魔法は、使いたいという衝動に駆られると、古代の本に記されている。
これは本能によるもので、逆らうことは出来ない。
母様だって、ガラクタを宝石にしたくて、たまらない時があると言っていた。
父様だって、意思を持つ人形を作り、会話しなければ生きていけないだろう。
……………あたしも、人や生き物を、ぬいぐるみや人形にしないと生きていけないわ。
ビオラやアリスみたいな、素敵なお人形がもっと欲しい。
あってもあっても足りないけど、やらなきゃ。
本能が求めてるんだもの、あたしじゃなくて、本能が求めてるんだもの。