外伝 「本能に負けちゃえ(I)」
生誕魔法は、その人間を作る。
……………そう本で読んだ時、やっと分かった。
この衝動が、抑えられない本能であることを。
あたしは、人形遊びが大好きだ。
なぜ好きなのか、理由なんてない。
でも、本当に大好き。
三歳の時。
あたしはいつものように、愛猫のビオラを撫でていた。
ずっとこのままビオラを見ていたいと思うくらい、幸せだったわ。
でもビオラは、ぐっすりと眠ったまま…………そのまま起きなかったの。
ただただ悲しかった。
頭がぐちゃぐちゃになって、涙が溢れて、何をすれば良いのかわからなくて。
誰にも言えずに、自分の部屋の鍵がかけられる箱に、放り込んだ。
この時のあたしは、まだ知らない。
これが、あたしの生誕魔法だったことを。
だって、あたし…………動物と喋れたんだもん。
普通、そっちが生誕魔法だって、思うでしょ?
あたしは、背丈が大きくなるにつれ、さらに人形を好むようになっていた。
…………他の子は、背丈が大きくなるにつれ、人形に飽きるのに。
恥ずかしい、でも、それでも、お人形遊びはやめられないの。
ある日、友達のアリスを見て、あたしはふと思った。
アリスって、お人形さんみたいで、かわいいなぁ。
アリスみたいな、かわいい女の子は、素敵。
母様も、可愛い女の子は美しいって言うし!
こんな彼女が、自分と同じ五歳だなんて、あたしには、とても信じられなかったのを覚えている。
しかし、あたしは、アリスのようになりたいわけではなかった。
ただ…………彼女を眺めていると、こんな感情が湧き出てくる。
ア リ ス み た い な 、 お 人 形 が 欲 し い 。
綺麗な金髪、雪のような白い肌、完成された顔。
きっとアリスが人形だったら、どんな服に着せ替えても似合うに違いない。
あたしはこの時、ビオラのことを思い出した。
……………ビオラは、箱に入れて保管していたのに、全く腐っていなかった気がして。
ビオラはずっと、あの時寝ていた、穏やかな表情のまま。
ポーズも表情も、あの時と全く変わっておらず、動く気配もない。
アリスも、こうなるのかな?
あたしは、なんてことを考えたんだと、自分を責めた。
でも…………ずっと抑え込んでいた思いが、もう限界に達してしまう。
今まで、美しい動物や、美しい人といると、この美しさを永遠に眺めていたいと思っていたのだから。
その度、自分を傷つけ、自分を慰め、痛みと快楽で必死に自分を騙し、他の生き物をビオラのようにしないように、耐えていた。
だが、そのような行為をする際も、頭にあるのは、美しい生き物の姿。
考えないようにしてはいたが、それを一度考えてしまうと、行きた心地がして、興奮して、体がさらにそれを求める。
何となく、やり方は分かっていた。
あの時と同じように、望んで素手で触れれば出来る。
そして、叔父様のパーティから二人で抜け出して、アリスと自分の部屋で二人きりになった。
彼女の一番美しい、笑顔で、あの状態にしたい……!!
「アリス、いつもありがとう。」
彼女は、とても優しい女の子。
きっとこうを言えば、にこやかに笑ってくれる。
心の中の興奮を、必死に抑えつけた。
今にも、自分の体をナイフで傷つけそうで、自分を慰めそうで、堪らない。
「こちらこそありがとう、バンボラ。」
彼女が笑ったのを見ると、あたしは勢いよくアリスを抱きしめた。
あたしが離れて、彼女を解放しても、彼女はずっと同じ笑みを浮かべていた。
彼女に触れ、骨格がロボットのように動かせることを知ったあたしは、アリスを座らせ、鍵付きのクローゼットにしまう。
ビオラから、死臭はしなかった。
これで、アリスは見つかることなんてないだろう。