百十八歩目 「そこをなんとか出来ませんか?(I)」
【ちょっと待って
兄上、息してる?
というか、どうやって喋ってるんだ】
「大丈夫、大丈夫。」
【本当か?】
「だって、大丈夫なんだもん。」
「え、え…………な、なに…そ、れ?」
「いや、私の生誕魔法だよ。」
【違う、それがどういう意味かと聞いている】
「それは………………内緒にしとこう、かな。」
エティノアンヌは、血色の悪くなった顔で、軽く笑う。
顔には既に血が通っていないのか、生気を失っているようなくらい真っ白だ。
彼はそのまま振り返り、姉妹に声をかける。
「リアとアリサは、お互いの思い、ちゃんと伝えたの?」
「えぇ、リサはちゃんと………って、何よその首……血だらけじゃないの!」
「ごめんごめん、エピンに煽られて、そのまま乗っちゃった………そしたら蔦で首が絞まっちゃってさ。」
「…………それ、腹話術?」
「大丈夫、大丈夫。そんなに気にしなくて良いって。」
「こっちが気にするのよ!!」
驚くアリサを横目に、アリアはエティノアンヌを冷静に見ていた。
よくある光景というわけではないものの、こうなっても彼が死ぬことはない。
正直、植物が育てられる環境にさえいれば、彼は植物を育て、それを自分の体の一部にして回復することができる。
体の複製と結合が簡単にできるため、『正常な思考』を保っている限り、植物の部分で再生するため、不滅なのだ。
これは、人間の部分を殺しても、植物の部分が ”人間の部分があった方が生きていく上で役に立つ” と考え、彼の体を修復してしまうからである。
彼は、構造を理解した人間の体を、植物にすることもできるが…………植物から、構造を理解した人間の体の部分を作ることも可能だ。
「ノア………お姉ちゃんもスタンツェ様も、困惑してます。」
「本当に大丈夫なのに………」
「………………こんなこともあろうかと、ノアの魔法についてまとめたものを、用意してきました。」
アリアは二人に紙を手渡した。
細かい字や、謎の計算式が、びっしりと書き込まれている。
どうやら、手書きで書いたものを、コピーしたもののようだ。
二人は、その紙に書かれた内容を見る。
〔ノアの魔法について
植物が育つ環境なら、水や空気が尽きぬ限り、育てたい植物を育てることができる。
これは非科学的な能力で、球根や種子がなくても、何故か植物を育てることが可能。
球根や種子を使わずに育てた植物からでも、球根や種子が回収可能。
人の体を植物に、植物を人の体に作り替えることができる。
(これは、魔法が進化して可能になったことと考えられる)
ただし自分が構造を理解している人間、植物しか作ることができない。
作るものに対する理解が深ければ深いほど、作るスピードと完成度が上がる。
人間と植物
人間→ X →植物
植物→ X →人間
ノアは、『X』に該当する。
人間に近い『X』、植物に近い『X』、それぞれを自在に行き来できるが、完全な人間、植物になることはできない。
ノアは一度、人間や植物を『X』にして、変化させている。
本来、普通の人間や植物は、『X』の状態のまま、十分ほど経過すると、『X』に適応できずに死ぬ。
ノアだけが『X』として生きることが可能である可能性が極めて高い。
黒→ 灰色 →白
白→ 灰色 →黒
上記のものに例えるならば、黒に近い灰色、白に近い灰色にはなれるが、完全な『黒』や『白』にはなれないということ。
灰色の状態で生きることができるのは、今のところノアだけ。
新しい人間を作り出す、新種の植物を作り出すことは不可能。
人格を持たせることは不可能。
脳の構造や、その人物に起こった出来事を記憶しておけば、ある程度は作れるが、完璧に再現するのは難しい。〕
………………そこそこの学力を持つアリサとエピンでさえ、頭が混乱する内容だった。
二人は改めて、兄と妹の頭の良さに絶句する。