百十七歩目 「本音では複雑(II)」
「…………」
「君が何かを守るたびに、こちらは沢山のものを失った。母さんも相棒も、かつての従者も死んだ。リアといると、時々思ってしまう………かつての従者、前の従者のように、奪われて、死んでしまうんじゃないかって!!!」
「……………」
「エピンや &%* が、バンボラのせいで、仕方なくやったことは分かってる。ノアだって、何かを守るためだったら、誰かを犠牲にするよ。」
「………………」
「でも、どれだけ奪ったら気が済むんだ!!君がずっと、 &$> を、守ってきたせいで……………こっちは全部奪われたんだけど?!…………自分が一番、不幸だと思ってるでしょ。全然、そんなことないから。」
「…………………」
「今でも覚えてる、母さんの助けを求める声も、バグノーシアの最期も、メロディの表情が ”亡” くなった顔も…………この頭から、離れてくれない。………なのに、エピンは辛いことを忘れているじゃないか。皆から全てを奪って守り切ったものを、奪われても、忘れられるじゃないか!!!」
「……!!!」
「忘れたい、全部忘れてしまいたい。でも、大好きな本を読んでも、大好きなリアと触れ合っても、 ”何か” は聞こえる。自分だけ幸せでいていいのかが、分からなくなる!!」
「………………………」
「そんなエピンとバンボラが、心底憎いのに……………なんで、なんで、嫌いになれないの?!他の人間は、適当に殺してこれたのに!!!殺しても何とも思わなかった、そのはずだ、ノアは人を、殺しても傷つけても何も感じない冷酷な人間であるべきだ、なのに、なのに……………ぐっ?!」
「…………?!」
「首が………蔦で……………」
「…………!!!」
「大丈夫だ………植物の部分で、息はできるし。」
「…………?」
「その目、やめてよ。そのバンボラみたいな目で、ノアを見ないで……」
「………!」
「その仮面、捨てればいいのに。言葉は伝えるのに、顔は隠したまま?」
「い、嫌…………嫌!!」
「酷な話だった、かな?ドールハウスで、大事に大事に育てられてきた………お人形さんには。」
「…………?!?!」
ギュッ!!
エピンは、怒りのあまり、蔦でエティノアンヌの腕を絞めた。
怒りに染まった彼の表情を見ると、エティノアンヌは呆れと怒りが混ざったような笑みで、彼を見つめる。
「人形にされそうになっても、まだ母親が好きなの?」
「……………!!」
「ノアは、自分の従者を人形にされた時から、ずっとバンボラのことを恨んでいる。城では、ずっと不安を感じていた………………リアも、メロディのように人形にされたら、どうしようかって。」
「…………?!」
「かつて別の従者がいたんだよ。バンボラに、人形にされたけど。」
「全部が………そ、そう、そうでは…………!」
「母さんが火炙りになったのは、バンボラが指示したから。バグノーシアがあんな目にあった原因も、元はバンボラにある。メロディが人形になったのは、説明するまでもない。」
「…………………」
「そろそろ、本音タイムは終了しようか。感情を持ち過ぎたら、互いに死ぬ身でしょ?」
「…………」
「ごめんね、未練があり過ぎて。全てがエピンのせいという訳ではないのに、エピンに当たるのは、少しおかしかったかも。バンボラは今もきっと生きてるだろうし、直接会いに行こう………かな。」
【それは危ない
兄上の美しさだと、人形にされる可能性がある】
「バンボラは、成人した人間に興味を持たないと聞く。それに私は背が高いから、人形には不向きだよ。」
【美しいという言葉を否定しないところが、兄上らしい】
「美しいという概念が、明確に定義されていないからね。認めることも否定することも実質不可能だ。」
【そっか】
「兄弟喧嘩は、もう終わりでいい?エピンも言いたいことがあれば、今言うのがいいと思う。」
二人は、ようやく落ち着いてきた。
隣の姉妹喧嘩も、終わってきたようである。
エピンは、エティノアンヌの首に目がいった。
もう、首が千切れそうなくらい、蔦で首がしまっている。
そんな兄の姿を改めて見ると、エピンは強い違和感を覚えた。
そういえば、エティノアンヌは…………先程から喋る際、全く口を開けていない……?
首からは、血がダラダラと流れていて、とても息ができる状況ではなさそうである。
抑えなきゃって思ってた、何度もやれば死ぬから。