百十六歩目 「本音では複雑(I)」
「えっ………?!」
「……………兄上も、知りたい…は、はず。」
「でも、それはさ……」
「母上…………お人形が、好きでしょ?だ、だか………ら、僕を………人形に。うご……食べる、だ………駄目。うつく、しい、から………遠く、なって…………えっと、人形に…………でも、未遂。」
「……………!!」
「僕………謝らなきゃ!!僕のせいで、皆…………はぁ……ぐっ?!」
「……エピン?」
「はぁ………だから、うっ………はぁ……………」
「無理して話し過ぎだ!少し休んだ方がいい。」
「ジャスパー……レナ……エリーゼ…………誰か、薬………………」
ジャスパーが、薬を持って急いで駆けつける。
エピンは彼から受け取った薬を、水も無しに飲んだ。
段々とエピンの息が緩やかになり、顔色も少しは、見られるほどのものになった。
【ごめん兄上
今でも話し過ぎると、こうなってしまう
息が荒くなって、吐き気がして、頭がおかしくなる】
「ま、前より症状、酷くなってない?大丈夫じゃなさそうだけど……」
「…………………」
「今のリス………エピンは、動物の言葉がわかるだけではなく、動物に言葉を伝えることもできるんだったか。」
【そうだ
人間にも、伝えられれば良いんだけどね】
「…………あの出来事を思い出しても、それが言えるの?」
【やはり、僕は何かを忘れているのか
所々記憶が曖昧なのは、それが原因と見える】
「@・〜#|%%&………。。」
「………?!」
「少し頭痛がするみたいだね。今だって、頭を少し抑えた。……………人形を操り、字を書くのがやっとと言った所、かな。」
【お互い様だ】
「どういうことか、私にはよく分からないな。」
【兄上だって、幻聴が聞こえているだろう
すごく必死に見えるよ】
「どうしてそう思う?」
【僕に対しての恐怖心が感じられる
母上の話を聞きたがらなかったのも、そのせいだ
例の、もう一人の兄が関係しているのか?】
「やはり、エピンは聡明だ。」
「………………」
「私には確かに、色々な声が聞こえているよ。」
【だから、饒舌になるのか】
「そうだ。母さんの声も相棒の声も従者の声も、父上や………エピンの忘れ去ったあの声も、バンボラの声も、もう聞きたくない。」
【やっぱり、兄上は僕のことが好きだけど、何か恨んでる】
「心眼を使っていないのに感情を…………頭が良すぎるというのも、不幸だね。」
【何故、僕が不幸に見えるんだ?】
「…………………気づきたくないこと全てが、気づかなくていいこと全てが、わかってしまうからだ!!」
【違う】
「……?!」
【もっと、優しくなくなればいいのに、ってこと】
「どういうこと?」
【僕に、本音を言ってくれ
ここまできたら、本音で語らなきゃ】
「……私の本音か。エピンにそれを言われると、ものすっごく……………不快になる、かな…?」
【やっぱり兄上、僕のこと割り切れてない】
「それこそお互い様でしょ。ノアを揶揄うの、そんなに楽しいんだ。」
「ふふ……ふふふ…………」
「………………その笑みは、軽蔑からくるもの?まぁまぁ、エピンが楽しそうで何より。」
【軽蔑じゃない
頑なに、兄上が本音で話さないこの状況が、面白すぎて笑えてきた】
「そんなにいうなら、そろそろ本音で話すね。上辺の言葉だけだと、ノアは全然楽しくないから。」
エティノアンヌは、フードをしっかりととって、赤い目でエピンを睨んだ。
自分と全く似ていない兄、そして自分と全く似ていない弟の顔を、二人は互いに見ている。
どうしてこうなってしまったのか、互いに何を思っていたのか。
二人の心の中には、そんな思いが渦巻いていた。
…………兄弟同士、家族としての愛は、確かにあったはずなのに。
「あぁそうだ、ノアは、エピンとバンボラが心底憎い!!!君と、君の母であるバンボラが!!!!」