百十三歩目 「理由はどこ?(IV)」
「そういえば私……………エピンのことが、少しだけわかってきた。今、緊張してるでしょ。」
【そう見えるか?】
「字が乱雑だから、瞬きもいつもより多いし。」
【流石心の一族
心に関する訓練や勉強を、幼い頃からやっていると言うのは、どうやら本当らしい】
「知ってたの?」
【君のお父様に伺ったから】
「あら、あったことがあるのね。………でも、外出を嫌うお父様が、お城まで出向くとは思えないけど?」
【おそらく、偵察だったのだろう
当主様は、こう仰っていた
”将来、娘を任せる王子が、いい加減な人間だと困る”って】
「それって、私とエピンを………………そ、そんなわけないわ!!北の国と王国の人間が結婚したら、法律違反になってしまうじゃない!!」
【僕は、その法律を壊そうと思っていたんだ
なんでかは覚えていないけど、誰かのために、その法律を壊そうと思った気がする】
「そんな軽い理由で法律を……………じゃなくて!!!それは、お父様が法律を変えることに賛成してたってことでしょ?!し、しし信じられない!!」
【嘘はついていないだろう?】
「…………” 今は ”わからないけど、まぁいいわ。それより私は、お父様とエピンが何を話したのかが気になる。」
【一緒に、沢山のボードゲームをやった
随分昔だったから、何をやったかはうろ覚えだけど】
「お願い、教えて!!しょ、詳細が気になるのよ!」
エピンは、必死に消えかけている記憶を掘り起こす。
なんてったって、もう十数年前なのだ。
そんな子供の頃の記憶を、覚えているのは極めて難しい。
あぁ、確かチェスをやったような…………
【チェスをやったような気がする】
「ず、随分曖昧なのね………」
【何年前だと思ってるんだ】
「でも、どうしても気になるのよ。お父様の行動は………いつも謎だから。」
【チェスがめちゃくちゃ強かったことしか覚えてない】
「じゃあ、私とチェスをしましょ!それで思い出して!!」
【そんなに思い出して欲しいのか?】
「うん。…………あ、もしかして、チェスセット持ってない?」
【いいや、そう言うことではなくて
負けても文句は受け付けないってルールで大丈夫かな、と】
「随分言うじゃない。私は大丈夫よ。戦略や勝負事なら、絶対に負けない自信があるわ。」
エピンは、その一言を聞いて、どこか懐かしさを感じた。
ターゲットを殺した後、兄とよくやっていたからだろう。
………………いや、それだけではないかもしれない。
彼は、先程の朝食で感じたものと、同じ違和感を覚え、それを拭えずにいた。
だが、チェスは気分転換になる。
一緒にやるのも、悪くはない。
【良いよ、やろうか】
「ありがとう!!お父様のこと、頑張って思い出してね!」
【善処する】
エピンは、人形を使って、チェスの入った箱を取り出した。
そして、それを手に取ると、埃をはらい、駒を一つずつ並べていく。
【先手は譲ろう】
「じゃあ、遠慮なく先手をもらうわ。」
二人が、チェスを始めようとした、その時だった。
リーン、リーン………
玄関から、インターホンの音がする。
ドアを彩るステンドグラスは、かなり高い位置にあるのに、そのステンドグラスから、くっきりと人の影が見えていた。
エピンもアリサも、誰が来たか察している。
エピンが、遠くから人形でゆっくりとドアを開けると、二人の姿を隠した人間が入ってきた。
背の低い方が、顔を覆っていたものを取る。
綺麗な長い赤髪が、ふわっと空気を動かした。
「……………お姉ちゃん?」
「リア……もしかして、リアなの?」
自分が正しい理由を、必死に探した。