百十一歩目 「理由はどこ?(II)」
その頃、アリアとエティノアンヌは、互いの意思を再確認していた。
「あの、私………なんとかして、姉には一回会いたいです。でも一体どうすれば………」
「相手は、こちらの居場所を知らないよね。」
「はい。」
「だけど、私はもう………アリサがどこにいるか、見当がついている。」
「さ、流石ノア……」
「だって……………弟の店の、目の前に縛って放っておいたから。多分気づくと思うよ。」
「えっ、スタンツェ様の店の、目の前?!」
「自分のお姉様が、縛られているところには何も疑問を抱かないんだ………」
「いや、別に。」
「まぁ、エピンはとても聡明だから、絶対大丈夫。」
「…………そうなんですね、なら安心できます。」
「………………私のこと疑ってる、かな?」
「はい、すごく疑ってます!!本当に、スタンツェ様を頼って、大丈夫なんですか?!色々………揉めたという噂がありましたけど。」
「ノアが揉めたのは、もう一人の方!というか、いうほど揉めてないし。」
エティノアンヌは、ムッとした顔を見せた。
子供のような彼の表情に、アリアは少し呆れる。
「まぁそれは置いておいて…………ノアのことだから、エピン様が信用できる根拠は……あるんでしょ。」
「エピンは聡明だから。」
「は、はぁ……?」
「………………」
「えっ、まさかそれだけ?!」
「え?」
「もうちょっと根拠をください!なんか………こう、もっと………」
「エピンなら、アリサと上手く和解できる。」
「その根拠を聞いているんですが。」
「アリサは、嘘を見抜ける。嘘を見抜かれるが、これを言い変えれば、正しいことは信じてもらえる……ということなるよね。エピンはアリサの言い分に対して、アリアを殺されたという点に関しては否定するだろう。エピンなら、なんとなく私たちの関係を察して、アリサに抗議するはずだ。アリアは死んでない、兄と一緒にいるところを見たってね…………まぁ、弟の死体とあの少女を欲しがらない時点で、記憶が曖昧になっている可能性も高いけど。」
「それじゃあ、ダメなのでは…」
「でもね、多分エピンに………アリアを刻んだ自覚はない。」
「え?!」
「洗脳が解けても、普通は、自分が何をしていたかなんて覚えていない。残っているのは、殺したりした感触だけ。この記憶力が、もしなければ、私も………全てを忘れていたかもしれない。そして、君を刻んだことも、全て忘れて………………いつの間にか、バラバラになった君を見て……冷静な判断が出来なくて、君を助けようとして、皆の前で駆けつけて、目の前で仲間に殺されていた………かも。自分がやったことを、頭の中で、振り返る時間がほんの少しあったから………私は皆が立ち去るのを待って、君を助けるという選択ができただけだ。」
「…………………………」
「少し訂正する。冷静ではなかった、かな………………だって、応急処置が終わった後、城を飛び出したんだから。」
「ですね、あの時のノアは、冷静じゃなかったと思いますよ。殺そうとした人を、救おうとする人は、冷静じゃありません。」
「…………その後、エピンがどうなったのかは知らない。知っての通り、アリアを直すために、ここに屋敷を作って、それからずっとここに住んでるからね。でも、エピンは………きっと、何かしらアリサの言い分を否定してくれるさ。きっと、嘘そのものではなく、意識を持ってついて嘘がわかるだけだ。そんな魔法はないし、仮に生誕魔法にそういった類いもものがあっても、彼女の生誕魔法は、憎んでいる人への攻撃力が上がるものでほぼ確定している。」
「ですが、リアは…………それでも、スタンツェ様を、信じることなんてできません。」
彼女の言葉が、彼の心の奥の何かを掻き回す。
命は救ったが、自分自身も、アリアを殺そうとしたのは事実であり、自分の勝手な意思で彼女を生き返らせた。
例え彼女に何をしようと、かつて殺そうとしたことは消えたりしない。
自分だって、大事な人に毒を盛った人間を皆殺しにしてきたのだ。
心の底から反省していたかもしれない者も、長年使えていた者も、お構いなしに。
もう自分すら信じられないから、自分が信じたいと思った人間も、信用することができなくて。




