百八歩目 「作り直そっか?(III)」
【まぁ、それなりに色々あった
貴方だって、色々あったのだろう】
「えぇ、多分…………今まで正気じゃなかったと思う。」
【今度はこちらが聞こう
どうして、こんな労力と金を使ってまで、仇を打とうとした?】
「私ね、あの子と約束したの。けど、その約束を守れなかったから………何かしたかった、何もしていないと、気が狂いそうで!!」
【そうか
でも彼女は、生きてるかもしれない
いや、会ってから約束を果たせば良いんじゃないか、多分生きてるし】
「……今まで私は、リサは、何の為に人を殺してきたのかしら。いや、もうわかってる。リアの仇を殺すためなんかじゃなくて、私と同じ人間を増やすためだったんだ。きっと。」
【理由が明確に分かるなら、やり直せる】
「ありがとう…………そういえば、まだ名乗っていなかったかも。恩人には名乗るべきね。私は、” アリサ・ヴィラール・カルティエ・クレール=マインドハート=エレノア ”よ。」
【心の一族か
それにしても、まさかエレノア家だったなんて】
「別に遠慮はいらない、私だって、貴族のあなたに遠慮してないでしょ。」
【僕は貴族じゃない】
「何を言ってるの、アリアを刻んだ記憶がないのに、アリアを知ってたってことは、王城に出入りできるほどの貴族だったんでしょ……………あ、もしかして勘当されたとか?ならごめんなさい。謝る!」
【まぁ、どうせアリアから、兄上のことを聞いたら分かることだ
無関係ではいられない、再会も避けられない
せっかくだし、僕も名乗るとしよう】
「………………?」
エピンは、仮面を少しだけずらした。
仮面で隠されていた、彼の頬にあった模様が、これで見えるようになる。
アリサは、自分がとんでもないことを言っていたのに気がついた。
「その王冠と、薔薇の模様………ご、ごご、ごめんなさい!!いや!申し訳ありません!!まさか、そんな……リサは、嘘?!」
【僕は エピン・ノーブル・フィススタンツェ=ブランシュ だ
アリサ、改めてよろしく】
「え………なんで、え………お、王政は崩壊したはず………」
【崩壊させたのは僕ではない、誰が崩壊させたかは忘れてしまったが
まぁ、王政が崩壊する前に、兄上と僕は既に城から失踪していたんだ】
「嘘………でしょ……………じゃあ、リアを刻んだ、もう一人は?」
【僕の兄上だろう】
「リ、リアは………そんな禁断の恋に落ちてしまったと?!」
【だが、兄に王位継承権はあれど、家名はない
ブランシュは厳密にいうと家名じゃないから、アリアと兄上が恋仲でも、多分違反にならないから大丈夫
どこの生まれか分かっていない扱いだから】
「な、なんてこと…………」
アリサは、再び気を失いそうになった。
しかし、なんとか持ち堪え、エピンとの会話を続ける。
「結局、リアには………会えるのかしら?」
【きっと、兄上やアリアの方から来る】
「でもあの子、自分に生誕魔法がないから、お家を追い出されたと、そう思ってるの。」
【魔法がないから、追い出されたのではないのか?
本人が昔そう言っていたような気がするけど】
「いいえ、それはお父様がついた嘘。本当は、リアが………赤毛と白い目を持っていたからなの。一部の集団から、リアが縁起物扱いされ始めたり、何度も刺されそうになったり、命の危険があったらしくて。そしてお父様は、今は亡きお姉様…………リサからすると叔母さまね。彼女からのお手紙のことを思い出したそうよ。〔いざとなったら、どんな手段を使っても、娘を守れ〕という、叔母さまからの、お手紙のことを。」
【そうなのか】
「それで病むなく、リア王城に向かわせたらしい。どんな境遇でも良いから、うちの娘を引き取ってくれと、王に土下座をしてまで頼み込んだ。王城なら、一般の人間は立ち入ることができない。あの子も、安全でいられる。」
【どうして、アリアに本当の理由を言わなかったんだ?】
「お父様は、不器用だから、きっと情を断ち切れなかったんだと思う…………で、お母様は、お父様がリアに全部伝えていたと思っていたんだって。」
【なるほど】
「お父様は、リアのことを悔やんでた。一族が酷く傷つけられた時、お父様には全てが見えてしまうから。お父様の話を聞いた次の日、黙って外に出て、リアが刻まれた場所に行ったの。それで……………殿下の足を潰したわ。その後は、こっ酷く叱られて、自分で物事の判断ができる年齢になってから良く考えろって言われたっけ。でもね、大人になっても、ちゃんとした判断なんて、できなかった。そして、今のこれが、この状況が、正しく判断できなかった結果。本当にごめんなさい。謝っても許されないと分かっていても、今のリサにはこれしかできない。」
アリサは、エピンに頭を下げた。




