百六歩目 「作り直そっか?(I)」
「それと…………少し話は逸れるんだけど良い、かな?」
「はい、構いませんよ。」
「実は、目………復元したんだ。」
「え、あんなにずっと、そのままだったのに……」
エティノアンヌは、アイパッチを外す。
彼の右目の模様を見て、彼女は目を見開いた。
「その、模様……………」
「真面目な話がある。」
「……………ちょっと頭が、追いつか………ないです。」
「母さんは、どうやら……心の一族を捨てて、私を育てたみたいなんだ。アリアの頬の模様………気になってたんだけど、どうしても目のことが言えなくて。」
「…………………」
「出会った時は言う必要っていうか、寧ろ言ったらダメだったからさ…………もっと早くいうべきだったけど、本家と分家……自分がどっちの生まれか、分からないし、アリアと何かあったら嫌で。いつか言おうって、思ってたら………数年かかっちゃったね。」
「ノア……」
「……ごめんね。」
「結構びっくりはしましたけど、大丈夫ですよ。何か力になれることがあれば……言ってください。」
「ありがとう、じゃあ早速だけど、力を借りようかな………アリアは、ステファーヌって人を知ってる?私の母さんの名前なんだけど、聞き覚えがあれば。どこかの親戚だったりしない?」
「うーん………聞いたことがあるような、ないような。」
「なんとか思い出せない?」
「すみません、なんてったって相当昔ですから……ノアみたいな記憶力もないし。」
「そっか……じゃあ、アントワーヌって人なら知ってるかな?母さんの手紙に、この人を頼れって。」
「アントワーヌですか………」
「やっぱり、そう簡単には分からないね………」
「あの………アントワーヌって、お父様の名前ですけど。」
「…………え、本当に?!」
「私のお父様の名前は、アントワーヌ・ヴィラール・カルティエ・クレール=マインドハート=エレノア。お父様は現在、エレノア本家の当主をしています。」
「家名長っ………というか、エレノアってことは、アリアとアリサのお父さんってことで良いんだよね。」
「はい、そうですけど………なんでお父様のお名前を?」
「母さんの手紙に、我が弟であるアントワーヌを頼れって書いてあったから………」
「あぁ!そういえば昔…………お父様が、〔自分の生誕魔法なんて、なければ良かった〕………と言っている理由が知りたくて、お父様に直接聞いたんです。そしたら、 ”姉” が火炙りにされている所が急に流れこんで来たから、そう言いました……………他にも、一族の人間が大怪我した情景が、流れ込んできたことを聞きましたけど、父に姉がいたことは確かです!」
「火炙りで死んだ…………母さんの死に方と一緒だ。」
「あっ。す、すみません……!」
「いいや、良いよ。」
「はい………というか、これって……………」
「はぁぁぁぁぁ……まさか、まさかこんなに近い関係だったとは。」
彼は、ため息をついた。
危険を背負ってでも、アントワーヌに一目でも会い…………母が亡くなったことと、自分が元気であることを伝えよう。
………この手紙を読んで、そう思っていたのに。
〔アントワーヌは、この手紙を見せれば、どんなことがあっても力になってくれると思うよ〕、手紙の中の一文には、そう記されている。
だが、いくら姉の頼みがあろうと…………娘を切り刻み、娘と事実上結婚しているような人間を、そう簡単に認められるのだろうか?
アリサには何故か、嘘を見抜く力があるようだし、いい加減なことを言うことは不可能だ。
ただでさえ、エレノア家を恐れていたというのに、自分がエレノア家の生まれだなんて。
馬鹿げてる!こんなの、馬鹿げてる!!
エティノアンヌを、得体のしれない震えが襲う。
「ノア、めっちゃカタカタ震えてますけど、大丈夫ですか?」
「逆にリアは大丈夫なのか?!」
「さっきから驚いてばっかりだったから………結構、慣れちゃいました。」
「それにしたって………ノア達、従兄妹だったんだよ?!」
「うん、まぁそうなんですけど………ちょっと嬉しかったから。」
「…………?」
「………なんか、近所のお兄ちゃんみたいだなって!」
「待って……ここに罪悪感加わると、収拾つかないから……待って……」
「あれ……私、今なにか言ったらいけないこと、言いました?」
「お兄ちゃんは言っちゃダメ!!その、近所のお兄ちゃん扱いされると、罪悪感が…………」
「確かに、すみません………わ、わかりました。」
「それに…………ちゃんと男として見てもらえてるのか、不安になる。」
「大丈夫ですよ、ちゃんと見てますから、ちゃあんと。」
「それより……………あぁどうしよう、これからどうすれば良いんだろう。」
「しっかりしてくださいよ。ノアをなんとかできるのは、ノア……貴方だけなんですから!」
アリアは、頭を悩ませている彼に、喝をいれた。
これからを決めるのは、もう………彼女だけではない。