百三歩目 「なんで知らないんだろう?(II)」
【そう名言できるのは、アリアが生きていると言っているようなものだ
遺体が存在しないのが本当ならば、逆に生きている可能性が高いと言っていい
第一、僕はこの目でアリアを見た】
「………………確かに、そうかも。少しあなたの話を聞くわ。」
【でも、変だな
アリアは自分の行方を家族に伝えていない事になる】
「おかしいわ……お母様とお父様に報告もなしだなんて。」
【嗚呼、結婚の報告もなしだなんて、そんなのおかしい】
「そうよ、結婚の報告もなしに…………って、結婚?!?!」
【兄上とアリアって、もう結婚したようなものだったような気が………したのだけれど?】
「何かの間違いでしょ?!」
【そうか、二人がそれぞれ左の薬指につけていた指輪は幻覚だったと】
「え……じょ、冗談はよして。」
【さっき、兄上の言ったことは嘘じゃなかったと名言していただろう
嘘を見抜ける力があるのなら、僕の言っていることが本当だと信じてくれ】
「そんな………嘘…………自分の両目と手足を切り刻んだ男と結婚する、なん……て…………」
バタッ
アリサは、その場に倒れてしまった。
エピンは彼女を揺すったが、全く起きる気配がない。
結婚に驚くにしても、アリアは両手足も目も失ってないはずなのに…………
「起、き………きて?」
「………………」
「…………もう、さす………流石、がに…………話す、の…………疲れ…………つ、かれ、た。」
「………………」
「床………掃………除、した…ばっか…………だから、どい、て……!」
「………………」
完全にぐったりし、気を失っている成人を、人形で運ぶのは、バランスが取れないため危険過ぎる。
仕方がないので、エピンはアリサを持ち上げようとした。
しかし………彼の腕力は子供並み。
彼女を持ち上げることはできなかった。
体力も会話も酷いものだが、力に至っては見ていられないほどの有様である。
エピンは、運動することを母から禁じられていたせいで、運動する習慣がない。
それに、隣にはいつも頼れる、身体能力抜群の従者がいた。
足を失う前から、体を人形で補助することが当たり前だった彼の身体能力は、女性一人どころか、日常生活に支障をきたしてしまうほど。
エピンは、できることがなくなってしまった。
彼は、困り果てる。
とりあえず敵意はなくなったようだし、また翌日考えよう。
申し訳ないが、アリサには板の間で寝てもらうことになりそうだ。
「おはようございます。」
「アリア、起きたんだね。熱は………下がってる。とりあえず、朝ごはんにしようか。」
「………………」
「あ、もしかして、あんまり食欲ない?」
「いいえ、お腹はすごく空いてます…………けど、一つだけ言いたいことがあって。」
「何、かな。」
アリアは、エティノアンヌを………つぶらな瞳でじっと見つめた。
しかし次の瞬間、アリアは心配と怒りを混ぜたような顔で、ノアを睨みつける。
「ノア、もしかして外出しました?」
「えっ、してないよ。なんで?」
「家具や服の配置、私が倒れる前と、多分全く同じです。」
「それがどうかしたの?」
「全く同じなんですよ?机の上に置いてある、爪切りとのど飴も………、全く動いていないように見えるんですよね。ノアなら、爪切りくらい一日経てばしまうだろうし、のど飴だって、ベタつくのが嫌だから冷蔵庫に戻すはず。」
「…………な、なんか今日は、アリアが怖い。雪でも降るのかも。」
「こののど飴、まだ袋がひんやりしてる。私が起きる前に全く同じ位置に戻したのか…………」
「どうしたの、そんなに私を見て。私の顔に何かついているの、かな?」
「ノア、外出しましたよね…………?」
「そんな………熱を出した君を、一人にしておくわけない。」