十一歩目 「貴方のため?(III)」
建物は、靴屋を含めて煤だらけだった。
靴屋は奇跡的に原型をとどめており、他の建物は骨組みだけや灰になっている。
ザッハトルテは罪の意識を感じたが、それを振り払って靴屋の戸を叩く。
「ローズさん!どういうことですの?!あの靴を履いたら、父の足が無くなってしまいましたわ!!」
ガチャ
エピンはドアを開けると、冷たい目でザッハトルテを睨んだ。
「何故かしら。説明してくださります?」
【それをお前が望んだからだろう?
第一、お前の父は咎人だ
犯人はとんでもない速度で逃げていったらしい
お前達がこの街を荒らしたことは覚えておく】
「……………それとこれとは話が別ですの!!わたくしはそんなことは望んでいませんでした!!罰を受けて欲しい。でも捕まらないで欲しいと願った……………それだけですの。」
「ふふふ………ふふ……………」
「しゃ、喋った?!」
「…………………絞めろ!!!」
ギュッ
エピンは魔法で操る蔦で首を絞め、彼女を靴屋に引き寄せた。
小動物達は別の大きな建物に避難しているので、巻き込む心配はない。
そして靴屋の戸を閉めると、彼はザッハトルテをぎろりと睨む。
目から、ザッハトルテと自らへの怒りが感じられた。
「ぐっ…………?!」
「騒々しい………黙れんのか…………?」
「喋って…………?!」
「僕は、喋りたくない。それはもう嫌われたくないからだ。言いたいことを言えないより嫌われる方が余程辛い。」
「……………?」
「頭が湧いているから分からないか。お前のような愚民になら、なんと思われても構わないということだ。」
「ど、どう……いう……」
「罰を受けて欲しい?でも捕まらないで欲しい?お望み通りではないか。」
「ふざけないで………!わ、わたくしは………」
「両足を失うという罰を受け、走るのが早いという犯人候補からも外れる。お望み通りだろう?!」
「………………?!」
「感情に任せて口を開けば、あの時のように動物達以外皆消えてしまう。顔を見せたら恐れられてしまう。それが怖くて何も喋れなくなった。だが……………お前など消えても構わない。だから…………」
「な、何故………そんなの嫌、嫌よ………!!!」
「お前の為に思いを込めて作った靴が、他人を傷つけてしまったからだ!!!だからそれらを今すぐ精算する!!!」
「ひっ?!」
「エリーゼが………メイが……………僕のせいで…………絶対にここで終わらせる!!」
エピンは、ザッハトルテの首を絞めようとする。
しかし、あの言葉が頭から言葉が離れない。
『エピン、お前のような化け物は一生出てくるな。』
僕は化け物ではない!!
鳥を殺されたくらいで怒り狂うから怖い?
鳥くらいとはなんだ?!
お前らは自らの友人を人くらいなどと蔑むというのか?
正直、理解不能だ。
僕がたった一言……嬉しい、と言ったら皆が狂喜乱舞する。
僕がたった一言……不快だ、と言ったら皆泣きながら命を絶っていく。
僕は化け物ではない!!
………なのに皆が過剰に僕を気遣う。
ここでは違うが、僕の過去の世界はそれが僕の 当たり前 だ。
エピンは、それが嫌で嫌で仕方なかった。
目に入る顔は全て愛想笑い………大したことがない失敗を泣きながら謝られる。
『どうかお許しください……!!』
別に怒っていないのに。
そんなに僕が恐ろしく見えるのか?
安心してくれ、僕は寛大だ。
姿形は兄と重なるかもしれないが、僕は兄のような人間ではない。
そのような言葉をかける前に、皆逃げ帰る。
僕にとっての理解者は動物だけだ。




