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外伝 「毒芹を持った蜘蛛、雨の中の人形劇(I)」

「ついてこないで、この蛆虫うじむし!!こんな汚くて醜いゴミが、私の子供なわけないって言ってるでしょ!!!」




この言葉は、ずっと僕を無視していた母が、僕に初めて言った言葉。





父上も母上も、僕のことをいらないと思っている。

でも、そんなの仕方ない。

僕は、目玉がたくさんある蜘蛛のような顔で、蜘蛛のような足が腹の下からたくさん生えていた。

美しいものを好む母は、僕のことを嫌って当たり前だろう。


僕が生まれた三日後に、父と一晩を過ごし身篭って、城に幽閉されていた娼婦が、美しい息子を産んだらしい。

魔法がほとんど使えないそうだが、それは僕も同じだ。

父は特に、子供に関心を持たない性格だが、僕のことは嫌ったという。



自らも虫の眷属となり、虫に愛されるこの能力が、生誕魔法だと知った時には、絶望した。

すごい生誕魔法があれば、何かできたかも知れないのに…………





使用人からも、僕は罵倒され続けていた。

水をかけられて、殴られて、ただひたすらに自分の存在を否定される。

当時二歳の僕は恐怖に怯えていて、何もやり返すことはしなかった。




「気持ち悪い上に、何も長所がない………お前のような厄介な王子を押し付けられた、こっちの気持ちを考えろってんだ!!」


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


「この本を読めと言っただろう?!なんで読まないんだ!!」




……………無茶な話だ、読み書きすら教わってないのに。

それをあなたに言ったら殴られた、だから本を読まなかっただけだ。



三日後に生まれた弟も、僕と同じように優秀じゃなかったのなら〔教え方が悪い〕と、その使用人に言えたのかもしれない。

しかし、同じように雑に扱われていたはずの弟は、自らの力で言語を習得し、読んだ本も、人から一度聞いたことも、見たものも全て覚えてしまうような、本物の天才である。


魔法や血統は駄目だったようだが、頭の良さやカリスマ性、並外れた身体能力などに恵まれていた。

最初は、僕と弟はどちらも同じような扱いだったのに、弟の待遇の方がどんどん良くなっていった。

まぁ、僕の実の母から、もう一人王子が生まれて、僕ら二人は罵倒を浴びせられるどころか、ほったらかしになったのだけれど。




ほったらかしにされるようになってから、三日後に生まれた弟とは、よく遊ぶようになる。

三日後に生まれた弟は、自分の母に作ってもらった民族衣装とやらを身に纏っていて、会ったことはあっても姿は良く見えなかった。

もしかしたら、ルックスが良いという噂は嘘かもしれない。


性格の悪い僕は、僕と同じレベルの人間であって欲しいと、願っていた。

花を咲かせるだけの、使えない生誕魔法を持った、ちょっと頭がいいだけの醜い人間であってくれ。


写真でしか見たことがない二人目の弟は、とても美しかった。

きっと、母からも愛されているのだろう。


でも不幸なのは、きっと僕だけじゃない。

彼だけは、僕と同じに違いない。

見た目も心も、何もかもが醜い僕は、弟に言った。




『弟、少し顔を見せてはくれないか?』


『構わないよ、兄さん。布をとれば良いんだね。』


『あぁ。』




当時の僕らは、互いの名前を知らない。

そのためこの時は、〔弟〕や〔兄さん〕などと呼び合っている。



ファサッ




『これで、良い…………かな?』




布を外した彼の顔は、僕と似ても似つかない。

そして彼は今、植物で布を外していた。

ただの花を育てられる魔法ではなく、植物を操れる魔法だったのである。

僕は、色んなことに絶望した。


〔子らの救世主 ”オクトー” は、皆に平等である〕

こんな言い伝えは嘘だ。

僕がこんなに醜く、才能にも環境にも恵まれていないのに、美しくて、環境なんて関係ないほどの才能に恵まれた弟が、今……目の前にいるのだから。




『兄さん、そんなに見られると……ちょっと、恥ずかしいな。』


『弟………どうして、僕と一緒にいるんだ?。


『え、なんでそんなことを聞くの?』


『こんなに醜い人間……人間とも言えないような何かと一緒にいて、お前は楽しいのかと思って。』


『醜いって………目に見えるものが全てというわけではないんだから。私は、一緒にいて楽しいよ?私の兄さんは繊細なんだね。』




何故心まで美しい?

…………ここには、僕のような醜い人間はいないのか。




『そうだ兄さん、私は兄さんのお願いを一つ聞いた。だから、私のお願いも聞いてくれない?』』


『な、なんだと………?!』


『兄さんの名前が知りたいんだ!』


『なんだ、名前か………』


『だ、ダメならいいよ!けど………』


『バグノーシア・アグリー・フィススタンツェ。これが僕の名前だ、王位継承権はない。』


『それっ…………本名、かな?!』


『言いたいことはわかる、そんなひどい名前の者がいるわけないって言いたいんだろう?』


『とりあえず………………私の名前はエティノアンヌ、家名はない。』


『えっ?なんて?』


『エティノアンヌ、長いからノアでいいよ。』




酷い名前と、おそらく素敵な意味の名前。

なのに、長いというだけでなぜか親近感が湧いた。


バグノーシアという名前は、〔バグ〕と〔グノーシア〕、〔虫〕と〔認識〕するという言葉の掛け合わせである。

自分自身を、虫と認識しろというメッセージと、お前の存在自体がバグ………間違っている存在と言いたいのだろう。

ミドルネームも、醜いという意味だ。




『兄さん、兄さんのことはなんて呼べばいいの?』


『生まれた日は三日しか変わらないし、バグノーシアで構わない。』


『わかったよ、バグノーシア。』




エティノアンヌは、にっこりと笑う。

それを見ると、こちらも幸せな気持ちになった。




『ノアは、すごく幸せそうな顔をするな。』


『だって、バグノーシアのことを一つ知れたじゃないか!』


『それはありがたいけど、そんなに嬉しいものか……?』


『バグノーシアだって人のこと言えないよ、こんなに笑ってるのに。』




僕は、驚いた。

確かに笑っていたつもりだが、こんな蜘蛛のような顔から、表情が読み取れるなんて。

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