九十六歩目 「ちょっと言いにくくない?(II)」
それを言ったら、妹が生きていたという喜びと、そんな妹が何かの間違いで、こんな人間に惚れて、こちらも承諾し、事実上の夫婦になっているという絶望、どちらが勝つのだろう。
エティノアンヌは、それをただ必死に考えていた。
あの時………………殺すターゲットの一人に、何故かアリアが入っていたのである。
全力で抗議したが、それも虚しくリーダーの生誕魔法で洗脳され、エピンと共に事を済ませた。
………足と腕と目を、綺麗にとって渡してほしいという、得体のしれないその依頼の通りに。
その後、洗脳が解け、必死に動揺を隠して、その場に最後まで残り、エティノアンヌはアリアを部屋に連れ帰った。
そして、本で読んだ知識を活かし、全力で応急処置を始める。
止血した後、輸血もして、傷口を覆い、もう誰もいなくなた城の医務室にあった無数の薬品から正しい点滴を打った、できることをやり尽くした。
何日か寝ずに看病した結果、彼女は奇跡的に目を覚ましたのである。
その後エティノアンヌは、誰も立ち入らない深い森の奥に植物を操って屋敷を作り、アリアと共に姿を消した。
ある程度、体の部分などを複製できるようになっていた彼は、動けなくなったアリアの世話をしながら、これまた寝ずに体の部分の試作を続けた。
『………ねて、ますか?』
『理論上は、7兆分の1の確率で同じ人間ができるはず…………』
『……………リアがわるい、もう、まっくらでも、いい。一人で………うごけなくても………いい。だから、やすんで………ください。』
『この状態でアリアの耳を切り落とすのはダメだ、衰弱しきっているし、耳の複製はまだ困難だ。計算しないと……』
『ねて………もうねて………くだ…………』
『体の一部を切り落とせば、彼女の手や足が再現できるのかわからない!!手や目がない以上、彼女の体の一部から、彼女の拒絶反応が出ない、手足と目を作るしかないと?!目に関しては神経の形まで把握して、完璧に結合させる必要がある………医者でも不可能に近いことを、私が………?』
『ねて…………ね………』
『私に諦める権利なんてない!!洗脳されていたとしても、あれは自分でやったことだ!!!…………全て、私が悪いのだから。母さんだって私のせいで死んだ。』
当時の彼は、ただただ、自分を許すことができなかった。
『ぐるぐる………みえないのに、ぐるぐる………』
『…………待っててくれ、どうか待っててくれ。絶対になんとかするから。』
『じゅんばーん。あしくび…………ひざ………さいごは、ふともも。ずばーん、ぐしゃあ。』
『……………!!!!』
『ばらばら、どくんどくん、ぐわー、あはは………』
『……………………』
『ずっとにこにこ、ぐるぐる、ぐーるぐる。』
アリアは、日を追うごとに、まともな受け答えができなくなっていった。
その時の彼女は、殺された日のことを、意味もなく、幼児のように呟いていたのである。
エティノアンヌは、気が狂いそうだった。
食事や肥料どころか水を少量飲む程度の生活、ここ四日間ほとんど寝ておらず、話し相手もいない、当てもない。
孤独になったエティノアンヌの心は、どんどん病んでいく。
『嗚呼!!余計なことを考えるなノア!!まずは確率を求めなければ………確率の値〔 fN,A,n 〕を計算するには、〔 max{0,n−N+A}≤ 切り落とせば参考になる箇所 ≤min{A,n} 〕、Nが個数だから………切り落とせる箇所を当てはめればいい。そして、あの体のアリアが出血した場合、何分で命の危険に晒されるのかが問題だ。両手足は体の半分を占める。一般的な十歳前後の少女の体重は、37kg。手足以外に5kgの誤差があったとする、その半分をアリアの体重の推測値にして、〔 X 〕と仮定すれば、〔 13.5 ≦ X ≦ 23.5 〕これがアリアの体重に近いものになるから………』
『ぐるぐる、のこぎりといっしょにぐるぐる………』
『三分の一の血を流せば、命の危険があって、だから………その式は、えっと……………あっ、もうこんな時間。そろそろアリアに水を飲ませる時間だ、急がなきゃ。』
『ママと、パパと、おねえちゃんと、つないだおてて、ばいばーい。』
『アリアの食事はもう作ってあったよね?あれ……………アリアと会話ができないから、お手洗いに連れて行くタイミングもよくわからなくなったのか。さっき連れて行ったとは思うけど………一時間おきでいいんだっけ…………え、今は何日だ?何曜日だ?あれ……あれ………?』
『…………どこからが、かみのけ?』
『あぁ……………計算……しないと、試作も、しないと。』
『もう、ぐーるぐる………』
『あぁぁ………いや、不可能じゃない………本に書いてあったことを、全て活かせば………あぁ……あぁぁぁ…………可能かもしれない………植物の力もある………薬だって………あぁぁあぁ…………』




