九十五歩目 「ちょっと言いにくくない?(I)」
「本気で……言ってるのかな、それは。」
「どういうこと?」
「一般市民がどうでも良いと、本気で?」
「どうでも良いわけではないけど、私にとっては妹の方が大事。」
「その妹の敵討ちに、関係ない人間を巻き込むと?!」
「……………それの何がいけないの。」
「何言って…………!」
「あの子の方がずっと可哀想だ、植物コンビ………植物兄妹とやらに襲われて、どれほど痛かったか、辛かったか、あんなに血が残っていたのに、遺体はない。どうして、ねぇ、どうして。どうしてあの子は死ななくちゃいけなかったの。死んで良かったはずがないわ。だから私は復讐するのよ。もう、周りなんてどうなったっていいから。」
彼女の言葉を聞いて、エティノアンヌは殺されると悟った。
「…………………………どんな妹だった?」
「…………え?」
「水色の癖毛の少女、ハイビスカスの花飾りをつけた少女、ずっと笑顔でいた少女………殺した者は全員覚えている。」
「まさか…………あなた…………」
バサッ!!
エティノアンヌは、顔と髪を隠していた布と、一番上の羽織を脱いだ。
身軽そうな格好になった彼は、一輪の白い薔薇をトルテに投げる。
「ケーキを預かっていて欲しい、必ず取りに戻るから。」
そういうと彼は、店を飛び出した。
「絶対に…………殺してやる!!!」
アリサも急いで、彼の後を追う。
「足があったということは、貴様が兄か………あの子を、あの子をよくも!!!」
「…………………」
「弟の方はどこにいる?!あの子の遺体は?!」
「弟は数年前に死んでしまった。君の妹については、どの少女かわからない以上、答えられないかな。」
「嘘をついたわね…………弟が数年前に死んだというのは、きっと嘘。家族の生誕魔法で、そんなのわかるのよ!!」
「………もう、追いかけっこはやめよう。走りながら話すのは疲れる。」
「和解する気などない!!貴様の弟はどこにいる?!」
「そんなの知ら……」
エティノアンヌがそういった瞬間、とんでもないことが起こった。
彼はたった今、とある店が目に入り、ガラス越しにその中にいた人間を見た。
記憶力が並外れていた彼には、その仮面が王族のみ所有しているものだと、一瞬でわかる。
エティノアンヌには土地勘がなく、適当に走っていたのだが、運悪くエピンの店の中を見てしまったのだ。
「えっ……嘘?!」
「早く言って!弟はどこにいるの!!」
「……………」
「早く言えってば!!!」
エティノアンヌはどうすれば良いのか、全くわからなかった。
しかし、一度この鬼ごっこをやめなければ話にならない。
「アリサ、私を殺す前に、君の妹の遺体がどうなのかを知って、私に謝らせた方が賢明だと思わないか。」
「それは………!!」
「やっと止まった……………」
「くっ……だが、それを聞き出したら殺して………!」
「私が、ただ花を育てられる魔法で、人を殺していたという確証はあるのか?」
「はっ!!」
「君のことを殺しはしない。殺し屋なんてとうにやめた…………だが、私の罪は簡単に消えはしないからね、どんな妹だったか答える責任はある。」
「…………………赤い髪で、頬に一族の模様があって、小さくて、とても明るい子だった。あの子だけ、一族の屋敷から王城に行かなければいけなかった、それからしばらくして、大量惨殺事件が起こった。あの子は特に惨いことになっていたんだって。影で見ていた目撃者から聞いた。泣き喚くあの子を押さえつけて、両腕、両足、両目を………!!目撃者はそれを見て、そこから逃げ出したらしい。でも責めはしないわ。私も…………リサも、同じ状況になったら、同じことをするもの。でも、あの子を殺したやつは許さない。」
「それって………」
「だから、リサは、あの子と同じ目に逢わせてやる!!貴様にも、あの子と、同じ痛みを……………アリアと、リアと同じ痛みを!!!」
「君の妹の遺体は……………存在しない。」
アリサは、それを聞くと、彼の方に向かって行った。
彼女は殴ろうとしてきたが、エティノアンヌはそれを軽く避ける。
不意を突かれなければ、どうということはない。
エティノアンヌは、複雑だった。
アリサは、妹に酷い目に逢わせた人間を、妹を殺したと思い、憎んでいる。
だがその本人………アリアは、色々あったが元気で、その事実を知った上で、同棲しているという、アリサからするなんとも言えない状況なのだ。