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九十四歩目 「何処かで生きてますよね?(IV)」

女は………アリサは、まだ疑ってはいた。

足を見せた以上、別に疑う理由はないのだが、植物を意味する名前だったら困る。


……………植物の名前を持った人間は、殺さなきゃ。

なんの魔法かは知らないけど、植物を操る魔法を使っていた。

呼ばれ方は植物兄妹………けど、使われたと推測された凶器は、刃物。



この客は、不自然なほどに背が高い。

シークレットブーツのような靴で盛っているのかはわからないが、二メートルを超えているのではないだろうか?


だがもしかしたら……………実は声が低く、背が低くて、足もない女が、誰かに肩車のようにされている可能性だってある。

それで名前が植物の名前だったら、きっともう確定だ。

…………植物の名前だったら、思いっきりこいつを押してやる。

バランスを崩して倒れたところを、殺せばいい。


名前の意味を偽っても………こちらの勝ちだ。

人のつく嘘は、なんとなくわかる。



さっきの、あの店主の嘘だって…………




「母からは、〔自分が正しいと思ったものを、周りに間違っていると言われても、命を懸けて信じて欲しい。そして、君自身が、 ”命を懸けて何かを信じることは正しい” と証明してほしい〕という、意味の名前だと言われた。」




客は、亡き母との会話を思い出す。

自分の名前の由来を、聞いた時の、幼い記憶だ。




『………母さん。』


『どうした?』


『私の名前が、どうしてこんなに長いのか知りたい。皆が一度聞いたくらいでは覚えられないし、なんでこんな珍しい名前を………』


『まぁ、確かに長いよね。家名とか、諸々足したらとんでもないことになりそうだ。』


『………母さん、私に家名はないよ?』


『………………い、今のなし!それより、名前の由来だったね。教えてあげるよ。』


『あ、うん。』


『自分が正しいと思ったものを、周りに間違っていると言われても、命を懸けて信じて欲しい。そして、君自身が、 命を懸けて何かを信じることは正しい と証明してほしい。そう思って、私は君に ”エティノアンヌ” と名付けたんだ。』


『そんな意味があったなんて………』


『ちなみに、君の略称をノアにしたことも、ちゃんと意味があるんだよ。普通はアンヌだし。』


『言われてみれば、不思議!それにはどういう意味があるの?!』


『そろそろ頃合いかもしれないね、じゃあ、明日教えるよ。』


『わかった!』




………………母のその答えは、聞けなかった。




「そう、なら問題はないわ。」


「私の名前は変わった名前だし、長いからな…………意味が気になって自分で聞いたんだっけ、懐かしい。というか、なんで名前を?」


「植物の名前を持つ人間を探しているから。」


「それが復讐?……とやらなのか。私は、魔法で回復できるからいいけど、魔法を持っていない一般市民だったら、どうする気だったんだ………」




それを聞いたアリサは、エティノアンヌとしっかり目を合わせ、言った。




「それが?」




それを聞いて………………エティノアンヌも、後ろにいたトルテも、固まってしまう。

アリサは、奇跡的に植物兄妹の、兄の方に出会ったことには気づいていなかった。





つまり彼女は、本当に心から、復讐さえできれば、一般市民が死んでもいいと思っている。





彼女がここに来たことは、もはや必然だが、ここにエティノアンヌが来たのは単なる偶然に過ぎない。


妻が疲れで熱を出し、譫言うわごとで、苦しそうにあのケーキが食べたいといったため、悩んだ末、唯一電話の番号がわかる初対面の教祖を呼んで、頼み込んで看病を任せると、部屋にある植物と感覚を共有したままここに来た。

彼は、彼女が呟いていたそれが、教祖から貰った雑誌で見たケーキだとわかったが、あの状態の伴侶を一人きりにするわけにもいかない。

だがこれは、普段から彼女に甘え、無理をさせていた自分の責任…………それに、腰を悪くしている、初対面の教祖に行かせるなんて、そんな酷なことは、彼にできなかった。


自分でメモを作り、わざわざ顔も見えないようにした後、ノイズキャンセラーをつけ、視界は植物で目を作り、服の中に忍ばせ、周りを窺えるようにした。

植物の部分を減らすのにも限界があるため、服の内側と靴に隠してまでここにきたというのに、知らない女に腕を素手で突然むしられ、人と会話をせざるをえなくなってしまったのである。

頭の中の事実は、本当の事実じゃなくて理想。

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