九十一歩目 「何処かで生きてますよね?(I)」
あれから数日後。
一人の女が、今日も人を探していた。
「ねぇ、そこの人。植物コンビ…………植物兄妹をご存知ない?」
「あら、人探しですか?」
「おそらく植物を意味する名前を持つ二人の人間、そして………その片割れには脚の膝から下がない。知っている?」
「ごめんなさい、存じ上げません。」
「ならこの近くに住む、植物の名前を持っている人間を教えて、花の名前を持つ人間を。絶対ここら辺にいることはわかっているから。お父様の生誕魔法が狂うことは万に一つもない。」
「えーっと、確か………ガーベラちゃんっていう十五歳の女の方なら知っていますよ。」
「十五歳………彼女は背がそこそこ高かった、そのガーベラとやらが成人しているとは言え、彼女にしては少し幼すぎる。」
「……………まぁ、そうなの?お役に立てなくて申し訳ありませんでした。」
「いえいえ、当たるだけ当たってみるわ。そのガーベラさんという人はどこにいるの?」
「家は忘れてしまいました……あっ、でも…………よく、あちらのお店でお菓子を食べていますよ。お菓子が大好きなのに、華奢なんて羨ましいなって思ってて。」
「あそこのケーキ屋か…………美味しいの?」
「はい、とっても!でも、ケーキもお菓子も数量限定だからお早めに。女性が一人でやっていらっしゃるから、量に限りがあるんです。」
「ありがとう。」
女は、通りすがりの人間に頭を下げた。
次の日、その女は、例のお菓子屋に行った。
「いらっしゃいませ。………あら、また初めてのお客様。今日は初めてのお客様が」
「オススメのケーキはある?あっ、バナナが入ってないやつで、アレルギーだから。」
「わたくしの店はバナナを使っていませんわ、なので安心してください。じゃあ、これでどうでしょう。」
「柘榴のケーキ………柘榴は大好き、それでお願いするわ。」
「かしこまりました!」
「………ねぇ、あなたにひとつ聞きたいことがあるの。」
「なんでしょう?」
「ガーベラという女を知ってるかしら。」
「知っていますけど、何か?」
「その人は、どこに住んでいるの?」
「分かりませんわ……………というか、何故そんなことをわたくしに聞くんですの?」
「人探しをしてるのよ、幼い頃あって以来……彼女には会えていないから。」
「なるほど、ガーベラさんと仲が良いんですね。」
「違うわ、手がかりが全然ないだけ。その人が私の探している人間とは限らない。この辺りにいることだけは確かなのだけれど。」
「大変なんですのね………わたくしも、見かけたら連絡しますわ!どんな人なんですの?」
「植物の名前を持っている可能性が極めて高い、20歳前後の女性で、足の一部が欠損している。頬に、なんかよくわからない模様があった気がするけど………当時ワケあって動転してて、よく覚えていないの。」
店主の……………トルテの背筋が凍りついた。
彼女は、茨を意味する名前を持ち、仮面越しに見ても女性のように美しい、足の一部を失っている十八歳の青年を知っている。
頬の模様は知らないが、仮面の下についている黒いレースで、口元しか見えない。
この人が、エピンさんに復讐しようとしているの?
…………とりあえず、なんとかしなきゃ。
「はい、こちらが柘榴のケーキです。」
「……………………そう。」
トルテは急いで、客への注文を聞き始める。
彼女とこれ以上関わるのが、怖かったのだ。
自分が怖かったというのもあるが、エピンやメイが酷い目に遭うことに恐怖していた。
「ご注文は?」
「……………………」
「あら、もしかして…………」
目と耳など、顔どころか、全身のほとんどを、引き摺るほどの民族衣装で隠した背の高い男の客は、その場でメモを差し出す。




