十歩目 「貴方のため?(II)」
エピンは嫌な予感がして、追いかけようとした。
しかし、とある物が目に入り、完全に立ち止まる。
「……………………?!」
メイの店が燃えていたのだ。
「エピン………さん。」
そのすぐ傍に立っていた、煤だらけの人物が振り返る。
エピンはその人物を見て震えだした。
炎でこんなにも熱いのに、冷や汗が止まらない。
「……………………メ、メイ?」
「エピンさん、あはは………全部、燃えちゃったッスよ。」
「…………………?」
「お金は…………盗られました、それに………」
「あ………あ………………あぁ………」
「店も、メロンパンも………………親父も燃えちゃったッスよ!!!!」
「………………!!」
「あははは………あっはは…………あーっはっはっは!!」
「や、や………やめ………てく……………」
「あの強盗…………許さねぇからな………!!あの強盗!!あの強盗さえいなければあの強盗さえ!!!!」
「……………やめてくれ!!!」
バッ
エピンは、メイを抱きしめた。
「な、何して………」
「ぼ………くの…………僕のせ…………僕の………………あの…………」
「…………エピンさん?」
「靴……………な、など………………」
「うぅ…………うっ………」
「………………?」
「うわぁぁぁぁっ!!」
「えっ?!な、泣い……いて…………?」
別に、思いを込められれば何だって良かったわけじゃない。
どうしても人に売るのは靴が良かった。
けど、あの時止めておけばこんなことには…………
エピンは後悔せずにはいられない。
けれど、泣きじゃくるメイにかける言葉が分からない。
分からない自分が、好きになれない。
「お父様……………終わりましたの?」
「しめしめ……」
「お父様!!早くここから逃げないと、捕まりますわ。」
「こんなに山ほどあればひと勝負行けるな!!」
「な、なんてことを!もう賭け事はおやめになるのでしょう?!」
「うるさい!!!」
「きゃっ?!」
ドサッ
ザッハトルテは、父に払いのけられた。
借金を返済したら心を入れ替える。
だから話題の靴屋で、金を盗んでいつでも逃げられる靴を作れ。
父が右腕を失い、母と兄が死んで、王政が崩壊してから何もかも変わった。
でも、今度こそやり直してくれる
そう思ったからここで待っていたのに…………
ここで待っていたのに!!!!
「お父様………なんて………」
「…………なんだ?文句でもあんのか?」
「お父様なんて………お父様なんて…………」
彼女の思いが、爆発する。
「お父様なんて逃げられなくなってしまえばいいわ!!!」
罰を受けて欲しい。
でも捕まらないで欲しい。
そんな複雑な思いが絡み合った末の言葉だ。
その言葉が靴に届く。
ブチブチ………ゴトッ
「あ?」
「え?」
「あぁ………うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
父の両足が、契れた。
血の海が広がっていく。
「お父様!」
「ザッハトルテ………何しやがった?!ぐぁぁぁぁぁ!!!」
「わ、わたくしは……なにも……………………はっ?!?!」
ザッハトルテは、エピンのメモの内容を思い出した。
〖僕は靴に思いを具現化できるだけだ〗
引っかかる。
思いって何?思いって………
お父様のことは確かにどうでも良くなった。
けど………足が無くなりますようになんて願ってない!!!
ザッハトルテはやむを得ず救急車を呼んだ。
父は苦しそうに呻き声をあげている。
…………あの靴屋に全て問いたださなくては。
翌朝。
ザッハトルテは、靴屋に駆けつけた。




