そして入学へ
甲高い音が闘技場に響き渡る。
カラン、カランと地面に物がぶつかる音がして、両者の武器が折れた部分が宙に舞い、闘技場に落下する。
二人の全力に耐えきれず壊れてしまったのだ。
両者はお互いに立ち上がり、闘技場の中央で再び向かい合う。
「よき戦いだった、ライネル。久しぶりに楽しい戦いができた。貴君のこれからの人生に栄光の翼が在らんことを」
「団長も栄光の翼が在らんことを」
栄光の翼、それはかの大戦でユージーン・ノヴァクが黄金のマントを身に纏い、戦場を駆け巡り、幾多の戦いに勝利をもたらした、人類の英雄の旗印なのだ。それからというものこの国では、お互いの成功を祈る時に、「栄光の翼が在らんことを」というようになった。
「君にこれをあげよう。この学園で過ごす上で、何かと役に立つだろう」
渡されたのはリンテル家の紋章が描かれたブレスレットであった。これは暗にリンデル家が彼の後ろ盾になるということである。
「団長。あの少年、いくら手加減したと行っても団長と引き分けるなんて」
アルバートの隣にいる騎士はそう言った。
「手加減か、.........おそらくあいつも、ライネルも本気は出してはいないだろう」
アルバートは先の戦いに思いを馳せる。
「あの剣技、本来は両手で使うことを前提としているように見えた、それなのに、ライネルは、わざと片手で使用しているように見えた。何かわけがあるのだろう」
「わ、わざとですか?!」
隣にいる騎士は驚きを隠せない。
「いや、これはただの憶測にすぎない、気にするな」
アルバートは近くにいる騎士との会話を切り上げて、無言で廊下をただ進んでいく。だが、頭の中には先程の試合のことが鮮明に思い出されていた。
(重さ、速さを兼ね備えていた、あの剣技.............まさか、太古の時代に失われた最強の剣術、ノヴァク流なのだろうか、しかし、だとしてもどうやって?それに、、いや憶測で物事を言うのは好かん。いずれ、正解がわかるだろう。その時でも遅くはないだろう)
そして、ここは先ほどまで、激闘が繰り広げられていた闘技場の王族専用スペースで観戦していた三人は先の闘いを見て、言葉を失っていた。
カサンドラ魔法学園の学長トーマス・カサンドラ、王国の第一王子オスカー・フォン・ミスネル、そしてその護衛のシン・ブラウフの三人は王国最強の騎士の実力を前々から実感しており、アルバートが手加減していたとは言え、並の相手では引き分ける事すらできずに敗北する。それぐらい、かの騎士は強いのだ。
「彼が前代未聞の一次試験満点通過者ですか、学長」
は言葉をなんとか絞り出す。
「まさかここまでとは思いませんでした。しかし、殿下の良き助けとなるのではないでしょうか?」
「彼が王国の政権争いに関わる気があるのならという、前提ですがね」
自らの王位継承争いに無関係の人間を巻き込むのは良心が痛むのだ。
「彼の身辺調査を今行ってるのですが、全くと言っていいほど結果が得られていません。家族関係、出身、ここまでの旅路など、10代前半の子供が一人で旅をしていれば目立つはずなのに、全くと言っていいほど、情報が集まりませんでした」
トーマスは彼が一次試験で満点を取ったことを確認してから調査を開始しため、時間はほとんどなかったがここまで情報が上がらないのは、異例の事態と言える。
「殿下、どうかお気をつけください。刺客ではないと思いますが何かはあるかもしれません」
「人を見る目だけはあるつもりだ。まずは、直接対話して見ます。学長先生、情報ありがとうございます」
オスカー、シンはトーマスに頭を下げて、去っていく。
トーマスは一人、残り先程の激しい戦闘が行われていた闘技場を見て、先の激闘を思い返しながら、気がかりな点について考える。
(あの少年に対して、精霊が慄いていた.......?どういうことだ。普通精霊は人に対して興味を示すか、示さないの2パターンしかないはず)
トーマスはカサンドラ魔法学園学長にして、精霊使いでもある。といっても使役している精霊は中級精霊であり、そこまで大きな力は行使できない。
そもそも精霊術とは精霊に働きかけ、大自然に満ちている魔素を使用しているのに対して、魔法は自分の体内の魔力を変換して行使する。そのため、精霊が行使できる精霊術の規模は契約してきる精霊の格で大きく変わる。
また、魔素を人間が体内に取り込み魔力に変換する研究は長年行われてきたが、それが成就したことはいまだになく、研究は停滞を極めていた。
トーマスと契約している中級精霊は、精霊王であるライネルに対して、精霊としての本能が反応したのだろう。今のライネルは精霊王としての力を一時的に封じている。、しかし、完全に隠し切ることはできず、トーマスの精霊に気づかれてしまったのだろう、。
まだ、ライネルは表舞台に立つ事はない。しかし、停滞の時代から変革の時代へと時代は移り変わり、ライネルは表舞台へと押し出されることとなる。
でも、それはまだ、数年後の話である。