カサンドラ魔法学院編入二次試験
久しぶりです。夕凪桜です。
のんびりと、再開していこうと思います。
二次試験は魔法耐性の高い鎧に魔法をぶつける一見簡単に見える試験と、王国騎士と戦う二つがある。
まず、前者の試験。
これは受験者は特殊な腕輪を装着させられる。これは一回に使用できる魔力をある一定の量に制限して魔力量での差によって魔法の威力が変わってしまうのを防ぐと同時に魔力操作技術の細密さを問う試験なのだ。
ただ、ライネルの場合元々の魔力量が多いため無理矢理にでもこの腕輪を破壊することは可能だ。
精霊王である以上普通の受験者とは比べてはいけない存在なのだ。
そして、後者の試験は王国の第一騎士団、又は第二騎士団に所属する騎士たちからランダムで選ばれた騎士と本気で戦うことになる。もちろん、負けること前提である。ただ何年かに一度騎士が負けることもあるがそれは稀な例だろう。
ちなみにこれはライネルのことを宿屋に案内してくれた人から聞いたことだ。
もともとライネルは最上位精霊たちに鍛えられているため、二次試験が実戦的なことと言われても大して対策らしいことはしなかった。強いて言うなら手加減の仕方などだろう。
朝起きて、身支度を済ませるとライネルは食堂へ向かう。
するとそこにはすでに出かける支度をした昨日の人物が先に座っていた。
「おはよう、昨日はよく寝れたか?」
ライネルが近くに来るとそう言って声をかけてきてくれた。面倒見のいい人だ。
「はい!よく寝れて旅の疲れもちゃんと取れました!」
「なら、今日の二次試験も大丈夫そうだな」
「一次試験に合格していたら、の話ですけどね」
「何年か受験生を見てきたけど、君のように落ち着いていた雰囲気で会場から出てきた子ほど受かっているものさ。自信を持って結果を見てきな」
それだけ言うと、ちょうど食べ終わったのか席を立ち食堂から出て行く。
少しぶっきらぼうな言い方の中に、優しさが垣間見える。
ライネルは、昨日の一次試験の結果を見るために宿の外に出ると、そこには雲ひとつない、青空が広がっていた。
カサンドラ魔法学園の正門から入り、一次試験を受けた大きい講堂に合格者一覧が張り出されていた。
掲示板の前で泣き崩れる者。結果に不満を持ちただ騒ぐもの。歓喜に身を震わせる者。自分の結果が信じられずに呆然とするもの。さも当然かのように結果を見るものなど、多種多様な反応がこの場に存在していた。
ライネルは、遠目から自分の結果を確認して、自分が一次試験に合格していることを確認して、心の中でガッツポーズをする。
ここに留まっていても、意味がないので、早速二次試験の会場に移ることにした。
一次試験の突破者50人を最初に魔法の試験行うグループと、騎士との実践試験を行うグループの2グループに分けられる。
ライネルはこの時、後者の騎士グループになった。
学園の先生に引率されて、正門の左側にある訓練場群の中にある中規模闘技場に8人グループで別れることになった。しかし、それだと一人溢れる。その一人とはライネルであったのだ。
他の24人の好奇の視線に晒されたのは言うまでもない。
別のところから来た騎士の正装を身に纏っている男性に付き従って、他の受験生徒とは違う場所に向かうことになった。
ライネルは訓練場群の中でも一番大きい訓練場のコロシアムに連れて行かれた。
このコロシアムは年に数回しか使われることのない、巨大な闘技場である。
その設備は、観客の保護、闘技者が肉体的に深刻なダメージを負わないようにするなどの配慮がなされている。
その設備とは、肉体的ダメージを精神ダメージに変換する、ダメージ変換障壁。
観客席への被害を抑えるための防護障壁など、このコロシアムに使われているのは、ミスネル王国の魔導技術の集合体である。
このミスネル王国の魔導技術レベルは世界最高峰クラスであり、軍事大国のサレンディス帝国よりもその技術レベルは高い。
コロシアムのフィールドの真ん中に、ライネルの案内を担当した騎士よりも少し豪華な服を着ている赤髪で服の上からでもわかるぐらい、筋肉が隆起しているガタイの良い男性が佇んでいた。
そう、彼こそミスネル王国の第一騎士団団長にして、王国最強の騎士、アルバート・リンテル。
ミスネル王国4大公爵家の一つ、リンテル家の当主でもある。
コロシアムのフィールドに入ると、ライネルはアルバートからの、叩きつけるような圧倒的覇気を体で受け止める。
まだ、10代前半の子供に向けるようなものではないことはアルバートも十分承知だ。しかし、彼の本能が感じたことを確かめたかったのだ。この少年が数多の死線をくぐり抜けてきた可能性を。
そして、ライネルもアルバートからのそんな挑戦状に対して、自らの剣気で対抗する。
コロシアムの温度が一気に下がるのを感じた、ライネルを連れてきた騎士団員が慌てふためいている。
荒々しく、他者を圧倒するような覇気と、鋭く、他者の動きを封じる、剣気。
かたや、王国最強の騎士であるアルバートと、まだ十代前半のライネル。
相反する二人の覇気と剣気のぶつかり合いは唐突に終わりを迎えた。
「はっはっはぁぁ!!!!!」
アルバートが唐突に笑い出したのだ。それによって、ライネルも剣気を納めることにした。
「小僧、面白いな。俺の覇気を正面から受け止めるとはな。名はなんといんだ?」
「ライネルです。アルバート第一騎士団団長殿」
ライネルはアルバートからの視線を正面から
ライネルは正面から、アルバートと対話する。
事が急展開すぎてライネルの近くの騎士団員は、なにがなんだか分からない状況に戸惑っている。
公爵家の当主であるアルバートに無礼とも言えるような態度を取っていたが、そんなことを気にする余裕などなかった。
「いろいろ、建前だの、なんだのあったんだが.....今、俺は心の底から、お前との真剣勝負を望んでいるのだ!」
アルバートは興奮し切った表情でライネルに真剣勝負を申し込む。
「立場なんて関係なく、一人の剣士としてライネル、お前と剣を交えたい。これは入学試験とは関係ない。これは第一騎士団団長としての誇りにかけて誓おう」
ライネルは、アルバートから感じるその真剣な気持ちを台無しにするようなことはしたくない。そう思った。
そして、純粋に、ライネルもアルバートという一人の剣士として、剣を交えたい、そして、今の自分の実力を確かめたかった。
「その勝負、お受けします」
アルバートは、獰猛な笑みを浮かべるのだった。
世界にライネルが名を轟かせるのは、まだまだ先のことである。しかし、リンテル家の歴史にライネルは、今この瞬間から名を残すことになる。
まだ、一部の人間しかその存在を知らないが、世界中の人々はいずれ彼の名前を知ることになるだろう。
世界は彼を中心として、ゆっくりと、しかし、確実に、動き始めたのだった。