序章
目の前に広がるは茶色で彩られた人より遥かに大きい城壁であった。
そう、ここはミスネル王国が首都、王都ミズガルドであった。そして、ある一人の少年が新たなる物語の幕が上がる舞台でもあった。
少年の名前はライネル。今はまだ無名の12歳の少年であった。
「ここが王都ミズガルドか………想像以上の大きさだな」
その言葉にはようやく着いたことに対する安堵、そして知らない土地で暮らすことへの緊張などが含まれていた。
王都ミズガルドは円形で、王城、貴族居住地区、商業区、研究区、市民居住区に区分されており、区分けには城壁ないしは大通りが使われている。
「まあ、まずはカサンドラ魔法学院の編入試験に受からなきゃ話が始まらないけどね」
そう、ライネルがここミズガルドに来た目的はここにあるカサンドラ魔法学院の中等部編入試験を受けるためである。
カサンドラ魔法学院は小学部、中等部、高等部に分かれており、ライネルは今回中等部の編入試験を受けるのであった。
小学部は募集枠100人に対して300人が応募するが、中等部の編入試験は募集枠10人に対して応募者は500人を超える。
そのため中等部編入組は学内ではエリートとして扱われることが多い。
そして、高等部だが、編入試験は存在しない。学内で行われるクラス分け試験があるためだ。ここでクラスを4つに分ける。クラスごとにカリキュラムが異なるのがここの特徴だ。
他の国ではまずこのような事はしない。
それだけここ、カサンドラ魔法学院のレベルが高いのだ。
さて、話は編入試験に戻るかこの編入試験は実技、筆記、そして実戦の三つである。
この三つの中で一番難しいとされるのが実戦で簡単なのが筆記である。
ます筆記だが、これは小学部6年生が年度末に受けるテストと同じレベルであるからだ。
だが、実戦はこの国の騎士団を相手としたものであり、騎士たちは殺気をぶつけてくるので毎年7割の生徒はここで動けなくなってしまう。残りの3割も魔法がしっかりと発動しないものが多い。
体験したこともない殺気を当てられた受験者にとってこれはかなり難しいものである。
「あら、そんなことを心配しているの?ライネル。言っておくけどね、知識量であなたに勝てるのなんて受験者の中じゃ誰もいないわよ。実戦だってこの国の騎士程度じゃ相手にならないだろうし、簡単なものよ」
ライネルの周りには誰もいないはずであったが透き通った女性の声が聞こえた。
そのことにライネルは特別驚くような事はせず、落ち着いた状態で返答した。
「油断はするなって教えたのはどこの誰だっけ?シルフィードさん」
もし、その名を聞いたら世の中の研究者は皆驚きすぎて夢かと疑うかもしれない。
なぜなら、シルフィードという名は風の最高位精霊のものであるからだ。
なぜライネルが最高位精霊と話しているかという話は2年前のあの日の事件について話すしかない。
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………………
……….
二年前、ライネル10歳で、ミスネル王国の辺境の街ツーベルクに住んでいた。
近くには精霊の森という広大な森が広がっており、誰もその全容は分かっていない。
ただ一つだけわかっているのはここに、精霊たちが住んでいる事であった。
精霊が近くに住んでいることもあってツーベルクは豊かで天気も良い日が多く王都ミズガルド並みとは言わないが栄えていた。
だが、ある日の夜のこと、黒色に染められた街が夕焼けのように赤く染まったのであった。
住宅街で火事が発生したのだ。
精霊たちが近くに住んでいることから火事は全くと言って良いほど起こらないが、この日は違った。
炎はどんどん燃え広がりあたり一面を無差別に焼いていった。
この火事には裏の事情があった。
かつての大陸の覇者アルストラ王国がある二人の人間を殺すためである。
その者たちの名はジークとティリであった。ライネルの両親である
この日ライネルは国に両親を殺されたのであった。
「いいか、ライネル。力ってやつは人を狂わせる。器に合わない力はその身を破滅へと導く。お前の中に宿ってる力は測り知れない。だが、その力をお前なら使いこなせるはずだ」
「ライネル。あなたには世界を変える力があるの。それを正しいことに使いなさい、とは言わないわ。あなたが信じることに使いなさい。たとえそれが世間からしたら間違っていることだとしても」
それがジークとティリの最期の言葉であった。
その後ライネルは二人がずっと使っていた武器を預かり、転移石と呼ばれるものによって精霊の森へと転移させられた。
そのあと精霊の森の最深部、精霊の森と呼ばれる場所へと辿り着き、二年間そこでライネルは精霊たちから色々なことを学んだ。知識、魔法、剣技など10歳の子供がこなせる量ではなかったが、ライネルは全てを完璧とも言えるレベルにまでになった。
こうして今に至るのである。
………………………
「二年間、あなたが努力してきたのを間近でずっと見てきたわ。自分の力を信じなさい」
その言葉は親が子供に向けていう言葉に似ていた。
「誰もが幸せな世界は創れない。それこそ神であっても。でも、人々が争わない様な世界は作ることができる」
「可能というだけでほぼ不可能に近いことよ、それは」
ライネルの言った言葉にシルフィードは呆れと諦めた声音で答えた。
「僕にそれが出来ないって言うのかい?」
それは一見するとただの子供の強がりにしか見えない。しかし、シルフィードは違った
「いいえ、我らが王たる貴方以外の何者もそれを成し得ることはできませんが、貴方ならば可能かと」
シルフィードがライネルに言った言葉、我らが王たるというのはそのままあることを指す。ライネルは最上位精霊シルフィードの契約者にして精霊王なのだ。
はじめまして、夕凪桜です。
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